シンギュラリティが間近に迫る! AI研究者の予測を現実が上回る(中)
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駒澤大学経済学部 井上 智洋 准教授
Googleの技術者で人工知能(AI)研究の世界的権威であるレイ・カーツワイルは「『シンギュラリティ』(技術的特異点)は2045年にやって来る」と言った。今、指数関数的に技術の進歩や革新が進むなかで、その予測はさらに早まるとも言われている。そして2030年には、人間の社会生活、経済生活あるいは価値観が大きく変わる「プレ・シンギュラリティ」(前特異点)がやって来る。遠い未来の話ではなく約10年後のことである。新年を迎えるにあたり、私たちにはどのような心構えが必要とされるのだろうか。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニア、新進気鋭の経済学者、井上智洋 駒澤大学経済学部准教授に聞いた。
10年間で約1万9,000人分の業務削減
――次に、経済学の観点からはいかがでしょうか。
井上 「人工知能(AI)が将来的に人類の雇用を奪うのか?」という問題があります。この問題については学者・識者の間でさまざまな議論があり、今でも決着がついていません。ところが、議論より現実のほうがどんどん先行して動き始めたというのが最近の実感です。
17年10月、みずほフィナンシャルグループは「今後10年間で国内外の従業員約1万9,000人分(現在の従業員約6万人の3分の1に相当する)の業務削減を検討する」ことを発表しました。さらに、三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループを合せると、3大メガバンクで、単純計算で約3万2,000人分の業務削減が検討されています。金融業界では、Finテックの浸透で、人の手に頼っていた業務を徐々に省力化できるようになってきており、大幅な人員削減が可能になってきています。加えて、業務のデジタル化による経営効率化を加速し、人口減少や国内外の競争に備えていく必要があります。
2000年ごろに600人いたトレーダーは今や2人だけに
井上 この動きは別に驚きに値しません。アメリカでは、すでにウォール街のスーパー・トレーダーたちを取り巻く環境に大きな変化が起きています。相当実力のあるミリオンダラー・プレイヤーのトレーダーで高給を得ていた人でさえ、今やAIに淘汰され、どんどん職を失っているからです。たとえば、ゴールドマン・サックスで、2000年ごろに600人いたトレーダーは今や2人だけになっています。
日本でも、証券会社の人などに意見を聞きますと、意識の高い人の多くは、一様に「金融の世界がAIによって淘汰されるのは時間の問題だ」と焦りを口にしています。つまり、「人工知能(AI)における失業は起こるのであろうか?」という議論の決着がつかないうちに、現実の世界、アメリカではすでに失業が起こっており、この波が日本に押し寄せてくるのも時間の問題といえるわけです。
0.001秒単位で戦略を変えて取引を行うHFT
――わずか十数年で600人いたスーパー・トレーダーが今や2人ですか。アメリカはかなり極端とはいえ、AIの金融業界への侵攻の速さには本当に驚きます。
井上 たしかにアメリカの場合は極端ですが、実はトレーダーほど人間がAIにまったくおよばなくなってしまった領域はありません。長期のトレードはまだ人間の介在する余地が残っているのですが、短期トレード(HFTなど)はAIにまったく歯が立ちません。
「高頻度取引(HFT)」(Hi Frequency Trading)とは0.001秒単位で戦略を変えながら取引を行う超短期のトレードのことを言います。この世界ではすでに人間の出る幕はなく、「トレーディング・ロボット」(手足のあるロボットではなく、AIや自律的に作動するソフトウェアをこのように呼ぶ)が活躍しています。日によってかなりの違いがありますが、現在、東京証券取引所の取引の40%以上がトレーディング・ロボットによって行われています。
トヨタ自動車は2020年前半に完全自動運転実用化
井上 経済学の観点からもう1つ17年に起きた変化をお話します。それは、トヨタ自動車がついに「完全自動運転」に舵を切ったことです。トヨタ自動車は「2020年代前半にも一般道での自動運転技術を実用化。高速道路での自動運転走行については20年をめどに商品化する」ことを17年7月に表明しました。自動運転をめぐっては国内外の完成車メーカーに加えて、先行している、米テスラや米Googleなど異業種組とも技術を争っていくことになります。
私は完全自動運転については、日本メーカーはとても慎重で、先行している海外の自動車メーカーに大きく差をつけられて心配していました。おそらくトヨタ自動車も世界は完全自動運転の方向に進んでいると判断、覚悟を決めたものと思われます。
(つづく)
【文・構成:金木 亮憲】<プロフィール>
井上 智洋(いのうえ・ともひろ)
駒澤大学経済学部准教授。慶應義塾大学環境情報学部卒業。早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会などで幅広く発信。AI社会論研究会の共同発起人をつとめる。著書として、『人工知能と経済の未来』(文春新書)、『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版社)、『新しいJavaの教科書』(ソフトバンククリエイティブ)、『人工超知能』(秀和システム)、共著に『リーディングス 政治経済学への数理的アプローチ』(勁草書房)、『人工知能は資本主義を終焉させるか』(PHP新書)など多数。関連キーワード
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