2024年11月26日( 火 )

トランプ氏旋風を支える反エスタブリッシュの風潮

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、米国大統領選の情勢について触れた、5月4日付の記事を紹介する。


 米国大統領選では、共和党がドナルド・トランプ氏、民主党がヒラリー・クリントン氏を指名することが確実な情勢になっている。過激な発言で知られるトランプ氏は、共和党主流派ではなく、共和党主流派はトランプ氏以外の候補者の氏名を目指したが、トランプ氏の勢いは止まらず、トランプ氏が共和党の氏名を獲得することが確実な情勢になっている。
 米CNNによると、トランプ氏はインディアナ州の代議員の大半を獲得し、これまでに獲得した代議員数は1,053人になった。7月の共和党大会までに過半数の1,237人を獲得する可能性が高まった。

 トランプ氏に対抗してきた保守強硬派のテッド・クルーズ上院議員は5月3日、インディアナ州予備選で敗れたことを受けて選挙戦からの撤退を表明した。代議員獲得数で第3位のオハイオ州のジョン・ケーシック知事は現時点で選挙戦撤退を表明していないが、獲得代議員数は156人で指名獲得の可能性は極めて低く、選挙戦からの撤退表明は時間の問題である。
 この結果、トランプ氏が共和党候補に示される可能性が高まっている。

 他方、民主党ではヒラリー・クリントン氏とバーニー・サンダース氏が争っているが、クリントン氏は特別代議員の大半を獲得しており、サンダース氏が逆転勝利する可能性は低い。
 結果として11月8日に投票が行われる大統領選本選は、民主党ヒラリー・クリントン氏と共和党ドナルド・トランプ氏による戦いになる公算が高まった。ヒラリー・クリントン氏が勝利すれば、米国初の女性大統領の誕生ということになる。また、民主党が3期12年、大統領を得るということになる。

 第2次大戦後の米国で、同一政党の大統領が3期連続で選出された例は1度しかない。1988年にジョージ・ブッシュ(父)大統領が選出された事例だけだ。このときは、1992年の大統領選でブッシュ氏はビル・クリントン氏に敗北して大統領を1期で退いた。しかし、このときだけが共和党が3期連続で大統領を担ったのである。

 民主党のオバマ大統領は大統領を2期務めた。この後に、民主党のヒラリー・クリントンが大統領に就任できるのか。それとも、定石通り、共和党候補者が新たに大統領に就任するのか。大統領選は新たな局面に移行する。

 大統領選がトランプ氏とクリントン氏との戦いになる場合、情勢は現時点ではトランプ氏に有利に働く可能性が高い。

 最大の背景は、米国における反エスタブリッシュ感情の高まりである。このことは、米国における格差拡大=反ウォールストリート=99%運動の高まりと密接な関わりを持つ。ワシントン・ニューヨークの1%のエリートが、この国を支配しているとの見方が広がり、米国政治を1%の人から奪還しようとの思いが共感を呼んでいるわけだ。
 実際には、トランプ氏もニュヨークに基盤を持つ1%の人々に分類される人物であるが、トランプ氏がワシントンの権力者層を攻撃対象として発言を続けてきたことから、トランプ氏が反エスタブリッシュ感情の代弁者として位置付けられてきた面がある。

 ヒラリー・クリントン氏も年齢を重ねて68歳になっている。ビル・クリントン氏が大統領に就任した1993年には45歳だった。爾来、23年の時間が経過し、この間、クリントン女史は大統領夫人、上院議員、国務長官等の経歴を重ねて、文字通り、ワシントンのエスタブリッシュメントを代表する人物に変化している。
 米国に広がる反エスタブリッシュの感情はトランプ氏よりはクリントン氏に対してより強く逆風として作用する面が強いと思われる。

 1988年の大統領選で共和党候補が3期目の共和党大統領に選出された時代、世界にはディ・レギュレーションの風潮が強まっていた。レーガン・中曽根・サッチャーの表現も用いられたが、世界的に自由主義=規制緩和=小さな政府に対する指向が強まっていた。このなかで、共和党が3期連続の大統領を務めたのである。

 時代は大きく変化して、格差の時代に移行した。格差拡大は(新)自由主義がもたらした側面が強い。格差拡大に反対する世論が2008年の大統領選では“Change”の標語と結びついてオバマ大統領を誕生させた。オバマ大統領は格差是正という強い期待を背景に誕生したのである。
 ところが、オバマ大統領の8年間に格差是正は進展しなかった。そのことに対する失望も広がっている。格差税制を求める民主党員の支持はサンダース氏に集中したが、そのサンダース氏が民主党の氏名を獲得できない場合、格差是正を求める米国民の投票がクリントン氏に集中することは考えにくい。排外主義による米国民優遇を主張するトランプ氏に反格差を求める米国民の投票が向かう可能性も否定できない。

 トランプ氏が大統領氏名を確実にしたことを受けて、大統領選本選での勝利を意識して、過激な発言の軌道修正を演じるのかどうか。これまでの過激な発言が「計算された」ものであったのか、それとも地金を表わしたものであったのか。
 この点が明らかになることにより、今後の帰趨が定まることになるのではないか。

※続きは5月4日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第1427号「トランプ米大統領誕生可能性と日本への影響」で。


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・植草一秀の『知られざる真実』

 

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