第一交通産業(株)
代表取締役社長 田中亮一郎 氏

東証上場も視野に
──御社の2026年3月期の連結決算では、売上高1,000億円台に回復しました。
田中 26年3月期は、過去最高の売上高1,124億8,200万円(前期比13.1%増)を計上したほか、営業利益は35億8,000万円(同17.6%増)、経常利益は40億5,900万円(同1.2%増)、当期利益は20億6,500万円(同17.6%増)となり、増収増益をはたすことができました。タクシー事業での運賃改定の進展と移動需要の着実な取り込みや、不動産分譲事業での竣工物件の順調な引き渡し、不動産再生事業における大型物件の売却などが主な要因です。
当社もコロナ禍では移動需要の減退によって一時的に業績の落ち込みがありましたが、今は売上高や乗車人数などはコロナ禍前の水準に戻ってきています。もちろん現在も燃料費や人件費の高騰という逆風はあるものの、当社の立ち位置は非常に良くなってきていると感じます。
ただ、交通事業に偏重していては、2011年の東日本大震災などの震災時やコロナ禍といった、移動に制限がかかる事態となった際に大打撃を受けます。そのため、交通の規模は維持しつつも不動産や賃貸事業を拡大し、コロナ禍の直前には、売上比率を半々までもっていきました。そのため、コロナ禍ではたしかに交通系の事業が落ち込みはしたものの、その他の事業でカバーすることができ、その後の回復につなげることができました。
また、コロナ禍においても人への投資を継続し、雇用を維持するだけでなく、2024年度から2年間で新たに4,000人の社員を採用しました。その約8割は普通免許しか取得しておらず、会社負担で二種免許を取得してもらいました。同業他社が人手不足で苦しむなか、当社ではコロナ禍前と同等、あるいはそれ以上の稼働体制を整えることができました。地域差はありますが、街の勢いがある場所では、この「人の力」が明確に売上に結びついています。
──今後、東証への上場も検討されていると聞いています。
田中 福証への上場から20年以上が経ち、利益水準や株主数といった基準はすでにクリアし、東証へ行く準備は整ったところです。東証上場に際しても単に規模だけを追っていくのではなく、交通や不動産、金融、再生事業という多様なメニューを組み合わせ、「将来性のある会社」として市場に評価される仕組みを確固たるものにしていきます。
全国シェア2割のネットワーク
──御社が展開する「No.1タクシーネットワーク」の持株会を設立されました。
田中 現在、全国のタクシー会社約900社、台数にして約4万3,000台がこのネットワークに加盟しています。日本全体のタクシー台数の約2割強をカバーしている計算です。そうしたなか、25年5月に「No.1タクシーネットワーク持株会」を設立しました。これは加盟社の皆さまと当社との関係を一層強化するとともに、株主価値を共有することで、さらなる企業価値の増大を図ることを目的としたものです。
No.1タクシーネットワークは、いわば「互助会的な商社」のような存在です。地方のタクシー会社の多くは50台以下の規模で、自社だけでコストダウンを図ろうとしても限界があります。そこでネットワークのスケールメリットを生かして、4万台規模での一括仕入れを行うことで、加盟社に安く提供することができています。当社としても仕入れ能力が上がるので、お互いに「旨み」があるわけです。仕入れのほかにも、加盟社に対する営業支援も行ったり、加盟社の若手経営者たちとの勉強会を開催したりしています。
──EVタクシーや軽自動車タクシーなど、新たな取り組みについてはいかがですか。
田中 「No.1タクシーネットワーク」に加盟しているタクシー事業者を対象としたEV車などの普及推進を通じて、地域の脱炭素化と持続可能なモビリティ社会の実現に取り組んでいく方針です。
また、国土交通省が制度改正を行って軽自動車をタクシー車両として認める方針のようですが、制度が実現すれば20台程度の導入を進めていく意向です。現在、地方ではLPガスのスタンドが激減し、燃料補給のために片道1時間かけなければならないような不合理が起きています。車両価格も高騰するなか、狭い道でも走れる軽タクシーは、地方の足を維持するための現実的な選択肢になり得ると考えています。
地域の新たな価値創造へ
──沖縄事業にも力を入れられています。
田中 当社にとって沖縄は、非常に重要な拠点です。たとえば那覇市牧志の国際通りにある旧沖縄三越ビルを昨年末に売却しましたが、単に土地を転がすようなことはせず、5%の持ち分は維持し、一緒に何ができるかを考え続けています。
2年前に沖縄進出20周年を記念する祝賀会を開催した際、私は「私が社長の間は、沖縄の路線バスの廃止は絶対にしない」と公言しました。というのも、沖縄本島の約7割のシェアをもつ私たちが止まれば、沖縄の地域交通は崩壊してしまうからです。今後も沖縄県民の皆さまの期待に応えるため、移動を担う輸送機関として、また豊かな生活を創造する不動産事業者として、さらなる前進と改善を重ねながら地域の信頼と信用をより深めていけるよう取り組んでいきます。
──北九州商工会議所の副会頭も務められていますが、最後に、北九州市の現状についてはどのように見られていますか。
田中 北九州市の都心部では築50年を超える建物が多く、建替えの時期を迎えています。これら老朽化の進んだ市役所や病院、球場など、市民に必要なインフラをどう維持・再生していくかが重要です。今年2月に設立した「北九州移住促進協議会」に当社も参画しておりますが、そうした官民連携での取り組みも行いながら、人が集まり、住み続けられる仕組みをつくっていかなければなりません。
当社では「パレス」シリーズの分譲マンション開発を行っていますが、JR西小倉駅前の「グランドパレス小倉城下 ザ・マークス」(77戸)は、竣工まで約2年を残して全戸完売となりました。現在はJR黒崎駅前で、新たな大型分譲マンションも計画しています。行政や他社とも協力しながら、地域の文化を守りつつ、新しい価値を創造していく。
これからも、お客様のいちばんそばで地域に深く根差し、「第一交通があって良かった」と喜ばれ、心から頼りにされる企業グループを目指してまいります。
【聞き手:永上隼人/文・構成:坂田憲治】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:田中亮一郎
所在地:北九州市小倉北区馬借2-6-8
設 立:1960年6月
資本金:20億2,755万円
URL:https://www.daiichi-koutsu.co.jp
<プロフィール>
田中亮一郎(たなか・りょういちろう)
1959年4月生まれ、東京都出身。青山学院大学卒業後、82年4月に全国朝日放送(株)(現・テレビ朝日(株))に入社。94年7月に第一交通産業(株)に入社し、取締役、専務、副社長を経て、2001年6月に代表取締役社長に就任した。北九州商工会議所副会頭や福岡経済同友会副代表幹事、福岡県タクシー協会会長、全国ハイヤー・タクシー連合会副会長、同地域交通委員会委員長など数々の要職も務める。

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