施工不良で視界不良になった東亜建設工業の行く末(後)
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偽装が行われた手口
では、どんな経緯で偽装が行われたのか。福岡空港の1件を題材に、東亜建設工業が提出した「品質マネジメントシステム(QMS)における業務フロー模式図」【図3】を基に、具体的に手口を見ていこう。なお、工法の内容については【図1】を参照してほしい。
バルーングラウト工法の開発部署に当たる、本社エンジニアリング事業部課長クラス〔A、諭旨解雇の1人〕の部下に、本工事の作業所長クラスである担当者〔F〕がいた。Fはバルーングラウトを注入する際の曲り削孔の軌跡を修正できるシステムを、事前に関連会社の信幸建設出向者〔G〕より聞いていた。また、〔A〕からは薬液注入補正システムの存在を聞いていた。
曲り削孔はおおむね順調だったが、改良体の中心位置が規格値以内に収まらないという施工不良が生じてしまった。だが〔F〕は、もう1人の作業所長クラス〔H〕と協議し、この問題を発注者である国交省には報告しないと判断した。なぜなら、この工事は曲り削孔によるバルーングラウト工法の工事として同社が初めて受注した工事で、ある意味で社運をかけており「失敗は絶対に許されない」というプレッシャーがあったからだ。この問題は九州支店課長クラス〔I〕と〔J〕にも報告されたものの、現場担当者ですら解決策が見つけられないという理由で黙認。〔I〕と〔J〕は九州支店土木部長〔L〕に相談しても解決策は示されないと考えて報告しなかった。そんななか、仕様書通りの薬液が注入できず、〔F〕と〔H〕は薬液注入補正システムを使い記録を継続。事後ボーリングでは虚偽の試料を調査会社に持ち込み、完成図書は改ざんされたデータに基づいて作成されたという。
以上が、福岡空港における偽装と施工不良が生じた大まかな経緯だ。実際の指示は現場の作業所長クラスが出したことになっているが、実際には本社からの強烈なプレッシャーがあったことは想像に難くない。
国交省側はこうした事態について、新たに開発した工法について組織的な検証が不十分で、来るべき報告を求めない会社幹部の無責任さを指摘している。だが、国側のチェック体制にも不備があったと言わざるを得ない。この点は有識者委員会でも指摘されており、今後は工事の監督・検査において抜き打ちを交えた現場立会い、施工結果の確認のための事後ボーリングを、受注者と資本関係のない者に別件で発注するなどの対策を講じるようだ。大手ゼネコンが支援か
実は同社は11年から、過去に施工した97年竣工のマンション建築工事における瑕疵を理由に、当該工事の発注者より東京地方裁判所において損害賠償請求訴訟(請求金額12億600万円)を提起されており現在係争中。ベランダの壁のタイルを剥がすと発泡スチロールや木枠、網などが出てくるなどの欠陥が指摘されている。
また13年には広島県呉市のマンション建設工事現場で作業員が死亡する生き埋め事故が発生。危険防止措置を怠ったとして指名停止を受けるなど、しばしば問題を起こしている。今回のような事件が発生する萌芽は、すでにあったのだ。かなり大がかりに経営姿勢を見直さなければ、今後も問題が続く可能性は高い。そんななか、同社の資金繰りが困難になると予測して、大手ゼネコンの大成建設と清水建設が支援に乗り出すのでは、とする報道も一部で出ている。「施工不良により中途半端に改良された地盤の改良工事は、これまでに経験のないもの」(国交省)で、かなりの損失も予測されている。同社は荒波で視界不良のなか、後悔してもしきれない航海を続けることになる。
(了)
【大根田 康介】<COMPANY INFORMATION>
東亜建設工業(株)
代 表:秋山 優樹
所在地:東京都新宿区西新宿3-7-1
創 業:1908年
設 立:1920年1月
資本金:189億7,665万円
売上高:(16/3連結)2,002億8,200万円関連記事
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