2024年10月04日( 金 )

ニュースアプリ大戦争が始まった(後)

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 スマートニュースやグノシーと同じように無料のキュレーションサイトでありながら、自前の編集部門を抱え独自の特集記事を展開しているのがニューズピックスだ。編集長は週刊東洋経済出身で東洋経済オンラインの編集長をやった佐々木紀彦氏。さらに週刊ダイヤモンドの記者や朝日新聞の元台湾特派員の野嶋剛氏らを起用し、「コンテンツにお金を払う文化を育てたい」(朝日新聞の記事)という。200万人が無料会員だが、月額1,500円を払う有料会員は3万7,000人にもなる。1~3月期決算は3億3,000万円の売り上げで、3,600万円の利益を弾き出した。20~30歳代の若いビジネスパーソンからの支持が厚く、「いまや日経を買わないで最初からニューズピックスで入る人が多い」と日経販売局も気にする存在になっているようだ。

 ニューズピックスに転じた野嶋氏は『ラストバタリオン』や『ふたつの故宮博物院』などの著書があり、「朝日新聞社の早期退職制度を利用して早々と朝日の先行きを見切った」(朝日新聞西部本社出身者)といわれる。この野嶋氏を筆頭に同じように朝日から続々ニュースサイトに転じているのが昨今の潮流だ。

 テレビのコメンテーターでおなじみの元アエラ編集長の浜田敬子氏は春から米国のニュースサイトのビジネスインサイダーの編集責任者に転身。ヤフーが合弁で始めたバズフィードジャパンの古田大輔編集長も元朝日新聞シンガポール特派員で、バズフィードには朝日や毎日の出身者が相次いで転職、同業のハフィントンポストからも日本版副編集長らが合流した。一方のハフィントンポスト(日本版)は朝日新聞が出資して合弁で設立し、編集長の竹下隆一郎氏は朝日新聞出身者だ。

 早稲田大を拠点としたワセダクロニクルの編集長は朝日新聞特別報道部出身の渡辺周氏。クラウドファンディングで出資を募って運営するという珍しい形態だ。さらに週刊朝日編集長だった山口一臣氏が、かつての部下を引きつれて近くパワーニュースというニュースサイトを創刊するらしい。

 朝日脱藩組が続々新興のニュースアプリを創業したり転職したしたりしているのは「朝日社内の絶望的な閉塞感がある」(朝日記者)ということが背景にあるらしい。2014年の従軍慰安婦報道の訂正依頼、社内の士気はあがらず、ことなかれ主義が蔓延しているというのだ。

 こうした紙メディア出身者がニュースアプリの健全化に役立つならば業界も進捗するだろう。パクりとねつ造が横行したDeNAを始め、サイゾー系のビジネスジャーナルが2016年8月に掲載したNHK特集「貧困の子」を批判した記事が、まったく取材もなされていない虚偽の内容だったという衝撃的な問題も発生した。「1本1万円程度の極端に安い原稿料の、広告モデルのサイトに品質を求めること自体が土台無理。そんなんじゃあ適当な原稿を垂れ流すに決まっているよなぁ」(日経のOB記者)。

 「原稿料が安すぎてリターンが全然見合わないからネットで執筆するのは嫌ですね」と週刊ダイヤモンドの記者も言う。刺激が強い記事に仕立てて、やたらアクセス数を稼ぎたがる半面、原稿料はものすごく安い。別の経済ジャーナリストも「安売りをしているようで嫌です」と言う。

 ベテランジャーナリストは「取材にかかるコスト、取材対象からの批判やクレームに対応するリスク・マネジメント、それと労力に見合ったリターン。この三位一体の改革がなされない限り、ネットメディア、ニュースアプリはいつまでたってもジャーナリズムの世界では『格下』の扱いだろう」と指摘している。

(了)
【データ・マックス特別取材班】

 

(前)

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