ウクライナ侵攻から3年 日本企業のロシアビジネスの行方を考える
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国際政治学者 和田大樹
ロシアによるウクライナ侵攻が24日で3年を迎えた。侵攻が始まる直前には、ウクライナをめぐる情勢の緊迫の度合いが増し、ウクライナの首都キーウと欧州各国を結ぶフライトが運航停止になっていったのをよく覚えている。また、筆者周辺の専門家たちの間でも盛んにこの問題が議論となったが、多くの専門家たちは侵攻する経済的代償があまりにも大きいため、プーチン大統領は侵攻という決断を下さないのではとの見方が強かった。しかし、実際にロシアは侵攻し、それ以降、欧米諸国や日本など40カ国あまりがロシアへの制裁を一斉に強化し、日露関係も冷戦後最悪なレベルに冷え込んでいき、多くの日本企業がロシアから去っていった。
たとえば、日本の大手自動車メーカーは、侵攻から半年が経ったことから脱ロシアの動きを活発化させた。トヨタ自動車は2022年9月、ロシアでの生産再開の見通しが立たないことから第2の都市サンクトペテルブルクにある工場を閉鎖し、ロシア国内での生産から撤退する決断を下した。日産も翌月、ロシア事業からの撤退を表明し、現地の子会社であるロシア日産自動車製造会社の全株式をロシア産業貿易省の傘下にある「自動車・エンジン中央科学研究所」に1ユーロで譲渡する方針を明らかにした。その後、同省は23年3月、トヨタのサンクトペテルブルク工場が自動車・エンジン中央科学研究所に譲渡された後に国有化されたと発表した。サンクトペテルブルクにある日産の工場は自動車・エンジン中央科学研究所への譲渡後、ロシアの乗用車最大手・アフトワズが22年末から自動車生産をその工場で開始した。
また、侵攻直後からロシアへの自動車部品の輸出を停止し、現地での生産を停止していたマツダも22年11月、ロシアからの撤退を表明し、ロシアで製造を手がける大手自動車メーカー・ソラーズとの合弁会社の株式を同社に1ユーロで譲渡することを明らかにした。大手トラックメーカーのいすゞ自動車も23年7月、同業他社から遅れるかたちでロシア事業から撤退することを明らかにし、同じようにソラーズに事業を譲渡した後に撤退すると発表した。
このようなかたちで多くの日本企業が脱ロシアの動きに拍車を掛けたが、23年8月に帝国データバンクが発表した統計によると、ロシアに進出する上場企業のうち、撤退や事業停止、規模縮小など脱ロシアの動きを示した日本企業は約半数に上った。これについてはさまざまな意見があろうが、多くの日本企業が脱ロシアの動きに舵を切ったことは間違いない。
では、今後日本企業によるロシア回帰の動きは出てくるのだろうか。トランプ大統領はウクライナ戦争の終結に強い意欲を示している。しかし、トランプ大統領の念頭にあるのはロシア軍がウクライナ領土を実効支配する現状での戦争終結であり、仮にトランプ大統領、プーチン大統領、ゼレンスキー大統領のもとで何かしらの合意に至っても、トランプ政権後にロシアが戦闘を再開するリスクは十分に残っている。そして何より、トランプ政権下で何かしらの合意に至ったとしても、他国を侵略したというロシアによる悲劇は歴史に刻まれることになり、政治的な分断が解消されることはない。日本企業によるロシア回帰も、実際には欧米諸国の動きを見据えたうえでの決断となり、例え戦争が終わっても、日本企業はその後遺症に直面することになろう。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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