一層の高付加価値化を推進しブランド材「小国杉」を次世代へ

小国町森林組合
企画販売課企画販売課長 梅木孝浩 氏

小国町森林組合 企画販売課企画販売課長 梅木孝浩 氏

 熊本県阿蘇地域に位置する小国町は、九州における4大ブランド木材の1つ「小国杉」の産地として広く知られる。その生産者である小国町森林組合は、森林認証の取得をはじめとする付加価値化などによるブランド価値の向上を図ることで、厳しい事業環境にある林業の活性化に早くから取り組んでいる。そこで、同組合の企画販売課企画販売課長である梅木孝浩氏に、組合や小国杉の現状、今後の展望などについて聞いた。

良質な杉を育む環境

 ──森林管理や小国杉の特性など、貴組合が取り組む事業の特徴について教えてください。

 梅木 小国町森林組合は、小国町の森林面積約1万haのうち7割以上の約7,500haの森林を管理しています。小国町の林業は約270年続いており、大きく「ヤブクグリ」と「アヤスギ」という2種類の杉を生産してきました。この地域は年間降水量が多く、夏と冬の寒暖差が激しい気候条件(冬場は氷点下10度近くまで冷え込むこともある)が、小国杉の独特な成長を促し、木をゆっくりと時間をかけて成長させることで、年輪の目が詰まり、強度のある木材が育つのです。また、小国町の地形は山間部ではあるものの、なだらかで高低差が少ないので、木の性質がそろいやすく、それが建築用に適した木材の産出に有利な条件となっています。小国杉はサーモンピンクのような色味の良さも特徴の1つで、こうした特徴から「日田杉」(大分県)や「飫肥杉」(宮崎県)、「屋久杉」と並ぶ、「九州4大杉」として幅広く認知されてきました。

 さて、近年は市町村の枠組みを超えて山林の管理を行う広域森林組合が増えていますが、当組合は1町1森林組合の体制を維持しながら事業を行っています。この体制を維持しているのは、森林所有者はもちろん、自治体、製材所などを含めた小国杉の生産、製材品の供給に携わる関係者とのつながりを重視し、地域の実情に根ざした経営判断を可能にするためです。そこで重要になるのが、森林経営計画の高い策定率です。同計画は、計画に基づいた効率的な森林の施業と適切な森林の保護を通じて、森林の持つ多様な機能を十分に発揮させることを目的に、森林所有者や森林組合などが、5年ごとに策定するものをいいます。全国の策定率は約29%(2022年3月末時点)ですが、当組合は長らく70%を超える高い水準を保ってきました。

 それを可能にしているのは、森林整備課に所属する職員全員が「森林施業プランナー」の資格を取得し、森林所有者それぞれに最適なプランを提案、サポートしているからです。また、たとえば公共建築物に適した強度数値を持つ木材や、特殊な木材がどこの山林にあるか、それらをいつごろ伐採できるかといった情報も把握しており、森から木材を直接ピックアップして産直販売するなど、建築に一歩踏み込んだサービスを提供できるのも当組合の強みです。こうした体制下において、年間約4万m3の原木を安定的に供給してきました。

ヤブクグリ、森林施業プランナー

地熱乾燥技術の導入も

 ──森林認証への対応など、小国材の価値の向上を図る取り組みに積極的ですね。

 梅木 森林認証は森林資源の持続可能な利活用を図るための制度ですが、当組合では「SGEC-FM」と「SGEC-CoC」(※)の認証を全国で2番目に取得しています。SGECは森づくりのISO認証とも呼ばれる第三者認証で、厳しい審査と更新手続きを経て得られるものです。国際的な認証「PEFC」と相互認証されています。トレーサビリティが明確で、かつ法令に基づき生産された「合法木材」の認定も取得しています。

※日本独自の森林認証制度で、国内の林業団体・環境NGOなどにより2003年に発足。SGEC-CoCは、認証森林から産出された林産物の適切な加工・流通を認証する

「SGEC-FM」と「SGEC-CoC」の認証書
「SGEC-FM」と「SGEC-CoC」の認証書

 木材加工においても、環境への配慮を行っています。小国町には杖立温泉・わいた温泉郷などの温泉地がありますが、地熱エネルギーを用いた乾燥技術を、小国ウッディ協同組合、熊本県林業研究指導所と共同開発し、2007年から実用化しています。40~60℃の中温でじっくり乾かすため、木材そのものにも負荷が少なく、素材の持つ色ツヤが保たれた美しい仕上がりになるなど自然乾燥に近い質を実現できるうえ、自然乾燥よりも短期間で乾燥させられることが特徴です。

地熱乾燥施設の外観
地熱乾燥施設の外観

 このほか、木が人の健康や心に良い効果があることについて、エビデンスを明らかにする取り組みも行っています。大学などの研究機関と当組合が独自に研究しているもので、「AromaWood(アロマウッド)」の登録商標を取得しています。具体的には04年11月に、九州大学芸術工学研究院による小中学校を対象に行った調査で、杉材を使用した学童机の香りや手触りが、ヒトの体内の免疫物質を活発化させることが明らかにされました。また、乾燥方法による小国杉板材の揮発成分への影響調査、小国杉精油の抗菌活性・ヒトへの効果実験、食パンと小国杉材を一緒に保管した場合の抗菌力・調湿実験も行っています。

認知度向上に課題

 ──森林認証の取得には、どのような影響がありましたか。

 梅木 認証取得は「間違いなくたしかな木材を提供できる」という、組合の姿勢を示すものですが、その認知度には課題が残ります。東京五輪において国立競技場が建設される際、認証材を使用すると報道されたときには、「ついに認証材の時代が来たか」と期待感が高まったものの、実際にはそのとき限りで終わってしまい、一般への認知度は依然として低い状況です。現状の市場では、原木販売において認証材の指定がほとんどなく、「合法であれば良い」という認識が主流となっているからです。なお、東京五輪の選手村には小国杉が使用されており、認証材が活用された数少ない事例となりました。

 認証取得には第三者機関による厳格な審査と審査費用がかかりますが、それが製品価格に反映されにくく、組合にとっての大きな課題の1つです。大変もどかしいところですが、当組合では木材を単に売るだけでなく、その歴史的背景や地熱乾燥、AromaWoodといった新たな付加価値、そして森林認証といった取り組みが、小国杉自体の価値を高め次世代へとつなぐうえで重要だと認識し、取り組みを強化、継続する考えです。

地域連携のハブとして

 ──組合の特徴の1つに「地域の実情に根ざした経営」を挙げられていますが、それはどのようなことを指すのでしょうか。

 梅木 地域全体として深刻な問題となっているのが、製材所の後継者不足。小国町内の製材所は家族経営が多く、新しい機械導入にあたっての投資体力が乏しいのです。この状況にあたって、当組合では「小国杉の原木があっても製品として出せなくなるのではないか」という強い危機感を抱いています。そこで、当組合が地域連携のハブとなり、地元製材所の営業支援を行っています。具体的には、当組合のホームページやSNSにおいて製材品の情報発信を行い、お客さまからの問い合わせの対応も実施。各製材所の得意分野に応じて案件を振り分けるなど、販売支援をしています。組合では木材を活用した各種製品、なかでも企業向けのノベルティ商品の開発・販売にも力を入れていますが、このような取り組みを行っているのは全国でもまれです。

小国杉を活用した木製品
小国杉を活用した木製品

    このほか、林業全体で課題となっている人材不足は当組合でも同様です。地元では林業と農業を兼業する人が多く、高齢化も進行しています。このため、組合は作業班を増やすべく、町内外で人材募集を行っていますが、離職率も高く、定着に苦労しています。一方で、ハーベスターなどの高性能林業機械を導入し、伐採システムを機械化することで、若年層の就業者の入職に力を入れています。製材所の問題も含め、町外との連携も視野に入れるなど、現状に合った在り方を模索しているところです。

非住宅市場の拡大に期待

 ──これまで最大の供給先であった住宅市場の縮小傾向が強まっていますが、どのようにお感じですか。

 梅木 たしかに住宅市場の縮小は危惧される事態ですが、今後の木材利用拡大に向けて、私たちは非住宅(中大規模)建築物の木造化・木質化に大きな期待を寄せています。これまで鉄骨造やRC造で建てられてきた事務所や店舗、倉庫などの非住宅分野での木材利用が進めば、強度のある小国杉が活用される場が増えるのではないかと考えているからです。都市部には消費地として、木材の活用をもっと増やしていただきたいですね。そのために当組合としても、相応の仕組みづくりに努めていきたいと考えています。なお、小国杉を用いた非住宅建築物の実績には、地元においては建築家・葉祥栄氏が設計した道の駅「小国ゆうステーション」や「小国ドーム」があり、これらは竣工が1980年代と比較的早くから実績があります。また、近年でも熊本空港の天井に小国杉100%の構造用合板が採用されるなど、県内外に実績が多数存在します。

小国ドーム

 もっとも、中大規模木造建築については現状、CLTが主流となっており、これは小国杉のような無垢材での構造設計や構造計算に、建築基準法上の制約が多いことが影響しています。このように、小国杉をめぐってはクリアすべき課題が山積していますが、私たちは山林所有者に適切な還元を行うべく、他の生産地や海外産材との価格競争に陥らないようにしながら、「こだわり」や「価値」を積極的に発信し、小国林業の課題克服に取り組んでいきます。

【田中直輝】


<COMPANY  INFORMATION>
代表理事組合長:北里栄敏
所在地 :熊本県阿蘇郡小国町宮原1802-1
設 立 :1951年12月
出資金 :5,117万円
TEL :0967-46-2411
MAIL:kikaku@ogunisugi.com
WEB :http://ogunisugi.com/
ONLINE SHOP:https://ogunisugi.theshop.jp/

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