武道の聖地が東公園に
大濠公園は美術の集積地へ
2026年1月の開館を予定している新たな福岡武道館が、まもなく竣工を迎える。
新・福岡武道館は、福岡県立美術館が旧・福岡武道館を含めた大濠公園の一部に移転・新設されることにともない、福岡市博多区東公園の福岡市民体育館の隣接地に移転・新設されるもの。敷地面積6,420.84m2に建つ建物はSRC造およびRC造(一部S造)の地上4階・地下1階建で、延床面積は1万3,593.60m2。観覧席を備えた柔剣道場や、弓道場、相撲場、バスケットコート1面分の体育館があるほか、市民体育館との連絡通路も設ける。施工は戸田建設(株)九州支店を筆頭とする戸田・溝江・起産特定JVが担当しており、23年10月に着工。工期は25年11月28日までを予定している。
右:やがて解体される旧・福岡武道館
旧・福岡武道館は1979年に大濠公園の隣接地で建設されたもので、青少年の健全育成や柔道、剣道、逮捕術といった警察術科訓練の推進向上などを目的としており、柔道場4面、剣道場4面、弓道場12的、相撲場1面を備えた施設。年間約9万人が利用する施設として広く県民に親しまれるとともに、各種武道大会や昇段審査などの場として重要な役割を担い、武道を通じて福岡の文化および地域社会とつながることで、地域の安全安心や青少年の健全育成に貢献し、武道の精神を次世代へと継承してきた。だが、前述のように福岡県立美術館の移転・新設にともない、先行して福岡における“武道の聖地”が東公園へと移ることになる。なお、すでに旧・福岡武道館の相撲場は25年8月から、弓道場は同10月から解体工事が着工しており、残る武道場も同12月から解体工事に入る予定となっている。
一方で、解体後の旧・福岡武道館の跡地に建設されるのが、新・福岡県立美術館だ。
須崎公園(中央区天神5丁目)の一角にある今の福岡県立美術館は、建設からすでに半世紀以上が経過し、老朽化が進むとともに建物の狭隘化や機能面での限界が課題となっている。そのため福岡県では、県民の大切な文化資産である美術品や美術活動を未来へとつなぎ、発展させるべく、新しい県立美術館を整備することとし、21年に「新福岡県立美術館基本計画」を定めた。同基本計画で示された4つのコンセプト「芸術の可能性を拡げ、挑戦する美術館」「九州・福岡県の文化芸術の発展に貢献する美術館」「県民が親しみ、誇りを育む美術館」「公園と一体となった美術館」の実現に向けて、建物の基本設計を実施。設計は隈研吾建築都市設計事務所が手がけた。
新福岡県立美術館はS造(一部RC造)地上4階・地下1階建の建物となり、延床面積は約2万900m2。建物の高さを、隣接する日本庭園に向かってステップダウンさせることで、庭園との一体化を促し、周囲の環境と調和した美しい空間を創出。また、伝統的な日本建築特有の深く持ち出した庇(グリーンイーブス)を設けることで直射日光を遮り、施設の環境性能の向上に寄与する。1階部分には国体道路から大濠公園への通り抜け空間「アーバンスリット」を設け、公園への新たな玄関口となるとともに、美術館を軸に、街と公園をつなぐ機能をはたしていくほか、アーバンスリットにはレストランやミュージアムショップなどの施設も隣接し、美術館や公園に新たな賑わいをもたらしていく。美術館の中央から東西にのびる大きな吹抜空間「メディアヴォイド」は、その空間を生かした作品が展示されるとともに、隣接する多目的ルームやワークショップスペース、展示室の活動がにじみ出し、新たなコミュニケーションが生まれる場となっていく。コレクション展示室や特別展示室は各3部屋ずつ設けており、さまざまな展示形態に対応可能。とくに特別展示室①では、吹抜空間を活用することで大型作品を展示することができ、これまで実現できなかった展示を行うことが可能となる。
今後は旧・福岡武道館の解体が完了した後、26年度から建設工事がスタートする計画。建物竣工後に、旧・福岡県立美術館からの収蔵品の移転作業などの準備期間を経たうえで、新福岡県立美術館の開館は29年度を目指している。
● ● ●
右:新福岡県立美術館 大濠公園側正面イメージ(HPより)
大濠公園から福岡武道館がなくなり、新福岡県立美術館ができる。新県美のすぐ近くには福岡市美術館があるほか、公園内には日本庭園や能楽堂もあり、さらに大濠公園に隣接する舞鶴公園には福岡城跡や鴻臚館跡などもあり、両公園の一帯は福岡市内における美術・芸術・文化の一大集積地となっていこうとしている。一方で、大濠公園の周辺エリアは、市内でも屈指の人気居住地であり、現在もそこかしこで“大濠”の名を冠した新たなマンションの開発が進行中だ。今回は大濠公園の周辺エリアにスポットを当てて、関連する整備プロジェクトや現在の開発動向などを見ていこう。
外濠跡の大濠公園と城跡の舞鶴公園
福岡市の都心部にありながら約39.8haもの広大な敷地をもつ大濠公園は、敷地の半分以上を巨大な池が占める全国でも有数の水景公園であり、“都心部のオアシス”として市民をはじめとした多くの人々に親しまれてきた。池の中央部は柳島、松島、菖蒲島の3つの島と、島をつなぐ観月橋、松月橋、茶村橋、さつき橋の4つの橋で南北に貫かれているほか、池の周囲には全長約2kmの周回園路が整備され、ウォーキングやジョギング、サイクリングを楽しむ人の姿も多く見られる。
大濠公園のシンボルともいえるこの大きな池だが、実はかつては海とつながっており、「草香江」と呼ばれた博多湾の入り江であったもの。慶長年間に黒田長政公が福岡城を建築する際、この入り江の一部を埋め立て、城の守りを固めるために外濠として利用したのが現在のかたちとなる始まりとされる。その後、明治期になって福岡城の廃城にともない、一時はこの大濠を埋め立てることも検討されたが、1927年に開催された「東亜勧業博覧会」を機に造園工事が行われ、29年3月に「県営大濠公園」として開園した。その後、49年には池に浮かぶかたちで浮見堂が設置。また、66年3月に開催された「福岡大博覧会」の会場として、公園東側を中心に再整備がなされた。79年には敷地内に福岡市美術館が開館。その後、84年に日本庭園、86年に能楽堂と、園内での文化施設の充実が進んでいった。また、90年代に入るとゴムチップ舗装がなされるなど周回園路の整備が進められ、95年に開催されたユニバーシアード福岡大会では、徒歩競技の会場として利用されたこともある。
現在、園内には遊具などを備えた児童公園も2カ所整備されており、そのうち園内北東側に位置するくじら公園では、インクルーシブな遊具広場の整備が行われ、25年11月にリニューアルオープンしたばかり。ほかに水辺には4つの店舗からなる複合飲食施設「ボートハウス大濠パーク」や「スターバックスコーヒー 福岡大濠公園店」、八女茶をテーマとした2階建の和モダン建築の商業施設「大濠テラス~八女茶と日本庭園と。~」などもあり、観光や娯楽、憩いの場として、市民はもちろんのこと多くの外国人旅行客などからも親しまれている。
その大濠公園の東側に隣接する「舞鶴公園」は、かつての福岡城の本丸城址跡を中心とした、約39.3haの広大な公園である。城址には約500本の桜が植えられており、毎年春には大勢の花見客で賑わうなど、こちらも市民の憩いの場となっている。
福岡城は、初代・福岡藩主の黒田長政公が1601年に築城した城で、天守台を中心に、本丸、二の丸、三の丸の4層に分かれ、潮見櫓(やぐら)、花見櫓、多聞櫓など47の櫓が設置されていたと言われている。現存する建物はほぼないものの、石垣群は比較的きれいな状態で残っている。1871年の廃藩置県にともない同地に福岡県庁が置かれ、76年に福岡県庁が中央区天神に移転した後は、旧陸軍第12師団歩兵第24連隊駐屯地が置かれていた。そして終戦後、福岡城址跡と駐屯地跡地をまとめるかたちで、舞鶴公園として開園となった。48年には園内に平和台陸上競技場、49年には平和台野球場などを含めた「平和台総合運動場」が併設されたほか、福岡高等裁判所、福岡地方裁判所、福岡簡易裁判所、福岡県弁護士会館といった法曹関連施設が集積していった。87年には、三の丸および平和台野球場一帯から平安時代の外交施設「鴻臚館」の遺構が発見。その後、95年に「鴻臚館跡展示館」が建てられ、97年には歴史公園整備事業の開始にともなって平和台野球場が閉鎖となった。
現在、福岡城跡を中心に、東側に鴻臚館広場および鴻臚館跡展示館が、北側に平和台陸上競技場が、西側に廃校となった舞鶴中学校跡地を再活用した福岡城・鴻臚館案内処「三の丸スクエア」のほか、牡丹杓薬園と西側広場があり、西側広場がそのまま大濠公園に接続している。また、かつて東側にあった裁判所関連施設はすでに九大・六本松キャンパス跡地に建てられた「福岡高地家簡裁合同庁舎」に移転完了し、旧庁舎建物の解体も完了。現在はその跡地が駐車場として暫定的に活用されている。なお、鴻臚館広場および鴻臚館跡展示館は現在、「鴻臚館整備・活用事業」として復元整備が進行中であり、これについては後ほど詳述する。
こうして2つの公園の成り立ちを見ていくと、福岡城の城跡に整備されたのが舞鶴公園であり、福岡城の外濠跡に整備されたのが大濠公園と、両公園は歴史的にも密接につながっていることがわかる。
(つづく)
【坂田憲治】

月刊まちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)
ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)










