建設産業専門団体九州地区連合会
副会長 中村隆元 氏

福岡市に本社を構える中村工業(株)は、今年創業120周年を迎えた福岡県内トップサブコンだ。同社代表取締役・中村隆元氏は、2025年度より建設産業専門工事業団体九州地区連合会(以下、建専連九州)の副会長に就任した。業界の根幹である「雇用」を重視し、専門工事業の持続可能な仕組みづくりに挑む中村氏に話を聞いた。
組合再生の旗を掲げる
──今年度、建設産業専門工事業団体九州地区連合会(以下、建専連九州)の副会長に就任されましたが、まずは就任の経緯をお聞かせください。
中村 このたびは各職を代表する先輩方からお声がけをいただきました。建専連九州は九州地方整備局と直接やり取りする窓口でもありますが、実際に雇用を進めている会社が少ないという現実があります。当社(中村工業(株))は社員を直接雇用し、技能職・技術職を合わせて270名以上の体制を築いており、その点を評価いただいたのだと思います。
同時に、私にとっての恩師であり、建専連九州の新会長に就任された宮村博良氏((株)宮村鉄筋工業・代表取締役会長)の存在が大きかったですね。宮村会長は職人思いで、「社員の喜びを自分の喜びとする」方です。私もその考え方に深く共感しており、会長を支えながら、組合としての“新しい形”をつくる役割をはたしたいと思いました。
──副会長として、どのような使命を感じていますか。
中村 まず、「組合の意義を問い直すこと」です。これまでの建専連九州は、年に数回集まって情報交換をする“親睦会的”な色合いが強かったように感じています。ですが本来であれば、業界を代表して行政と対話し、制度を改善していくための団体であるはずです。今は社会全体が転換期にあり、建設業界も大きな変化に晒されています。働き方改革、外国人技能実習制度の改正、防災・防衛関連需要の増大、さらには人材の高齢化や若手不足――課題が同時多発しています。だからこそ、組合の存在意義を再定義し、「誰のために、何のためにある組織なのか」を明確にしなければいけません。
雇用こそ業界の生命線
──「雇用」の問題を繰り返し強調されています。改めて、その重要性をどう捉えていますか。
中村 建設業の根本課題は、雇用の軽視にあると思います。親方制の流れを汲む業界では、どうしても個人事業主や一人親方が中心となり、雇用という考え方が根づきにくい。結果として、若者が安心して働ける環境を整えられません。他産業を意識し、今の時代に合わせたかたちに業界のかたちも近づけ、働く人々を減らしてはいけないのです。インフラ整備、防災、防衛、老朽施設の更新―どの分野をとっても、人手がなければ成り立ちません。雇用を確保し、働く人を守ることが、今の建設業に求められている最大のテーマなのです。
──中村工業において、雇用に関する具体的な取り組みは?
中村 当社では「人を抱える覚悟」をもって雇用を進めています。2025年4月に18名の新卒・既卒を採用しましたが、翌年度も13~15名の採用を予定しています。職種はとび・オペレーター、PC技術、施工管理と多岐にわたりますが、技能者と技術者を分けず、施工管理と施工図、CAD技術者育成にとくに尽力しています。
また、受け入れ基盤となる自社寮を再整備し、現在は夕食のみの提供ですが、26年4月からは朝食・昼食を含む“アスリート食”の導入を考えています。体づくりを含めて「早く一人前になる」環境を整えるよう考えています。さらに、20~30代には提携美容室の無償利用、40代以降には人間ドックを会社負担で実施するなど、身だしなみと健康も会社の責任としてサポートしています。また、退職後の安心のため、投資型退職金制度の導入も進めており、終身雇用を前提とした持続的なキャリア形成を目指しています。
情報が届く組織を目指す
──副会長として見えてきた業界全体の課題とは何でしょうか。
中村 まだまだこれからですが、まず、企業ごとの課題に対する「温度差」をなくすことです。300人規模の会社と、5人の会社では課題がまるで違う。それぞれの立場で議論しても、共通言語がなければ噛み合わない。だからこそ、私は「汗かく人が報われる世界をつくる」という1点で一致すべきだと考えています。
もう1つの課題は、「現場と制度の乖離」です。現場では人手不足が深刻化し、技術承継も追いついていません。一方で、行政の制度や業界団体の会議は机上の議論になりがちで、現場の声が届いていない。私は、そこをつなぐ翻訳者のような役割をはたしたいと考えています。現場のリアルを国に伝え、制度を実効的なものに変えていく。それが副会長としての最大の使命だと思っています。
──ゼネコンと専門工事業者との関係にも、変化があるとうかがいました。
中村 ここ10年ほどで、ゼネコンの現場体制が大きく変わりました。以前は元請社員自らが測量や位置出し、仮設計画などを担っていましたが、今は多くの業務が外注化、つまり下請企業の社員が行っています。現場管理者はコンプライアンスや書類業務に追われ、「ものづくりの現場」に立つ時間が減っているのです。その結果、施工の核である技術や判断力が分断されつつあります。
だからこそ、私たち専門工事業者が一段高い技術力と知識をもたなければなりません。社内教育については「人材チーム」を新設し、技能者と技術者を分けずに年次別の共通研修を実施しています。図面・施工計画の外部化などといった、元請企業の業務変化に即応できる人材を育成しています。また、他社や他業界との合同研修も開催し、職域を超えた学びの場を設けています。これも“閉じた業界”から脱却する第一歩だと思っています。
──情報共有の遅れも、業界課題として挙げられました。
中村 たとえば国交省が制度を改正しても、地方の現場まで情報が届くまでに半年、1年かかることがあります。その間にチャンスを逃し、誤った対応をしてしまう。だから建専連九州として、まずは「情報が届く組織」に変えたいと考えています。国の方針や補助制度、教育機関との連携情報などを、リアルタイムで共有できる仕組みをつくる。それができれば、各企業が自社の判断でスピーディーに動けるようになります。
次代を担う人を育てる
──中村工業としての発信力も強化されていますね。
中村 25年は創業120周年の節目の年ということもあり、社会への発信を積極的に行っています。象徴的なのは、みずほPayPayドーム福岡での広告です。大手企業の看板が並ぶなかで、あえて“サブコン”である私たちが名前を出しました。勇気のいる決断でしたが、「専門工事業の存在を可視化する」ことが目的でした。
また、今年7月には社内運動会をみずほPayPayドーム福岡で開催し、社員および協力会社の家族を含めて約1,300人もの人たちが参加してくれました。家族を知り、仲間を知る──そんな社風づくりを大切にしています。さらに、小中学校への防災ヘルメット寄贈、女子7人制ラグビーチーム「ナナイロプリズム福岡」への支援、地域の寺社や各種の慈善団体などへの寄付金など、社会貢献も積極的に行っています。建設業のイメージを変えるためには、私たち自身が明るく、前向きであることが何より大切だと思います。
──「格好よく・楽しく・社員の豊かな人生」という言葉が印象的です。
中村 昔の建設業は「厳しい」「汚い」「危ない」の“3K”と言われていました。でも、これからの時代に必要なのは、「格好よく・楽しく・社員の豊かな人生」を得られる仕事だと思います。働く人が前向きでなければ、若い世代はついてきません。
建設業は国の基盤をつくる仕事です。その誇りを取り戻すためにも、会社としても組合としても、「人が輝ける仕組み」を整えることが使命だと思っています。私は「人づくり」こそが最大の投資であり、最大の防衛だと考えています。
──最後に、副会長として今後の目標をお聞かせください。
中村 私は今、建専連九州という組織を再定義する時期にきていると思っています。これまでの形式を一度リセットし、「何のために存在するのか」を明確にしたいと思います。国や行政に提言できる力、現場の声を吸い上げる仕組み、教育と安全を共有するネットワーク―それらをもう一度、機能させたいのです。
そして、次世代のリーダーを育てることです。40代が少ないという現在の業界構造を考えると、今から育成に舵を切らなければ、10年後には深刻な空洞化が起きます。その危機感をもちながら、まずは自分が先陣を切りたいと考えています。経験したことを仲間に伝え、失敗も成功も共有することが大事だと思います。業界を変えるのは制度ではなく、人の意識です。だから私は、明るく、前向きに挑戦し続けようと思います。
「汗かく人が報われる世界を」──それが、私の使命であり、建設業の未来をつなぐために必ず実現したいと思っています。
【内山義之】
<プロフィール>
中村隆元(なかむら・りゅうげん)
1975年1月生まれ、福岡県春日市出身。中村学園三陽高校、福岡建設専門学校卒。学生時代はラグビーに勤しむ。2015年に中村工業(株)の代表取締役に就任。趣味は水泳、マラソン、仲間との酒飲み。
<COMPANY INFORMATION>
中村工業(株)
代 表:中村隆元
所在地:福岡市中央区舞鶴3-2-6
設 立:1947年5月
資本金:6,000万円
TEL:092-751-9381
URL:https://nakamura-k.com

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