太陽光発電システムはこの10年、設置コストの低減や各種制度の充実などにより、住宅用の設置件数が以前に比べ大きく増えてきた。今後は蓄電池と組み合わせることで、住宅の省エネ化が一層進むことが期待されているが、2025年度は法制度の改正もあり、それらの普及にとってエポックメーキングな1年になると位置づけられる。ここでは、太陽光発電と蓄電池に関するトレンドを整理する。
設置コストが大幅に低減
1990年代初頭、住宅用太陽光発電(発電量10kW未満)が本格的に導入され始めた。当時の導入費用は1kWあたり約370万円と高額で、たとえば4kWのシステム導入には約1,500万円を要したことから、94年度の累計導入実績は539件にとどまっていた。しかし、その後30年近くで累計設置件数は300万件を超える規模になった。現在は設置コストが25~30万円/kW程度となり、90年代当時の10分の1以下にまで下がっている。これにより、低コストでの導入が可能となった。
このような状況の変化に加え、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)、導入に関する補助金制度の開始などが、太陽光発電の普及を強力に後押しした。2012年にはFITの余剰電力買取価格が42円/kWhと高額に設定された結果、太陽光発電の設置数が一気に増加した経緯がある。
その後、FITによる買取価格は段階的に引き下げられ、25年度時点では15円/kWhとなった。現在、設置件数の増加ペースはやや落ち着いてきているが、国や自治体による住宅の省エネ政策推進により、毎年10万~20万件の新規設置が続いている。
太陽光発電の設置率については、環境省による20年度「家庭部門のCO2排出実態統計調査」によれば、日本全国での住宅用太陽光発電の設置率は22年度時点で約6.6%となっている。この数字は賃貸を含む全住宅におけるものであり、戸建住宅に限れば設置率は12.2%となっている。
既存住宅や共同住宅は低調
戸建住宅で設置率が高い要因としては、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及などによって、新築戸建住宅を中心に早期から設置が進められてきたことが挙げられる。【表1】が示す通り、11~15年に新築された戸建住宅での設置率が21.3%と最も高く、以降はFIT買取価格の減額なども影響し、15%台に落ち着いている。これに対して、90年代以前に建てられたストック住宅(既存住宅)は設置率が3%台にとどまっており、このことから、住宅全体の大多数を占める既存住宅での普及が進んでいないことがわかる。
また、共同住宅での太陽光発電設置率は22年度時点で0.1%に過ぎない。分譲マンションの場合は区分所有者全員の同意が必要となるケースが多く、合意形成が難しいことなどが普及を妨げているとみられる。賃貸住宅の場合は、オーナー負担で投資しても、メリットの大半(電気代削減)は入居者側に帰属するため、設置するメリットを享受しづらいことなどが、設置を見送る原因になっている。
九州で初の出力制御
九州は日照条件・再生可能エネルギー適地の多さから、住宅用・産業用太陽光導入が全国でも進んでいる。具体的には、電力需要が全国の約10%なのに対し、太陽光発電導入量は約17%といった状況だ。
太陽光発電は発電時にCO2を排出しないという長所がある一方で、日照時にしか発電できず、気象に大きく左右されるという課題も抱える。電力供給の安定性を保つには「発電量=需要量」のバランス維持が必須だが、再生可能エネルギーによる発電量は変動が大きく、需要を超える発電が起きると電力網(系統)が不安定となり、停電リスクが高まるのだ。【図】
九州電力(株)(以下、九電)管内では18年10月、全国初となる太陽光発電の出力制御が行われた。以降、全国各地で同様の制御措置が広がったが、九電によれば24年度の1発電所あたりの出力制御回数は年間18~19回に達し、全国でも最も多い水準である。
卒FITも追い風
使い切れない余剰電力の増大が系統安定化の課題となるなか、その解決に貢献するものとして期待されているのが、蓄電池である。余剰電力を蓄電池に貯蔵することで、ピークカットや需給調整に貢献できる。(一社)日本電機工業会(JEMA)の集計によれば、住宅用蓄電池の11年の出荷台数は約2,000台だったが、23年には15万6,000台、累計約82万4,000台にまで増加した。これは、各種補助金制度の拡充に加え、電気料金の高騰と太陽光発電の自家消費志向強化などが背景にある。

また、19年11月以降、家庭用太陽光発電の買取義務期間(10年)が満了する「卒FIT」が本格化している。たとえば、FIT制度開始直後の12年に設置した住宅では、当初42円/kWhだった買取価格が22年には7円/kWh(九電の場合)にまで下落。こうした売電収入の減少から、余剰電力を自宅の蓄電池へ貯め、すべて自家消費に回すほうがよりお得と考えるユーザーが増えている。実際、7円/kWhで売るよりも、14.53円/kWh(同、深夜電力Bの場合)の深夜電力消費を自家発電で賄うほうが、経済的メリットが大きい。
蓄電池の課題の1つは、導入コストだ。25年時点で容量1kWhあたりおよそ17~22万円、10kWhだと170~220万円が相場である。また、太陽光発電と蓄電池連携にはパワーコンディショナによる調整も必要であり、調整ノウハウが広く普及するようになったのは最近のことで、これも普及の停滞要因となっている。
法制度の改正が契機に
25年度は、家庭用太陽光発電・蓄電池普及における重要な転換期と位置づけられる。建築物省エネ法の改正により、4月からすべての新築建築物に省エネ基準適合が義務化され、太陽光発電による創エネ量も一次エネルギー消費削減に算入されるため、設置促進が見込まれるからだ。加えて、東京都は大手住宅事業者を対象に、4月以降に着工する中小規模(延床2,000m2未満)の新築住宅での太陽光発電設置の義務化を導入した。他自治体でもこうした義務化の動きは広がっていっており、全国的なトレンドとなりつつある。
ここで25年度の国や福岡市の、太陽光発電と蓄電池の設置に関する補助制度について触れておきたい。【表2】は福岡市の居住者が活用できる補助金の概要だ。国は太陽光発電の導入には補助金を設けていないが、蓄電池には「電力需給ひっ迫等に活用可能な蓄電システム導入支援事業」において1kWhあたり3万7,000円の補助を行っている。加えて、環境省の「戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業」では1棟当たり55万円、蓄電池には最大20万円を補助。次世代ZEH(災害対策)では同100万円と、蓄電池には追加補助が用意されている。
福岡市は「住宅用エネルギーシステム導入支援事業」として、太陽光発電に対して1kWあたり2万円(上限10万円)、蓄電池は機器費用の2分の1かつ上限40万円を補助する。さらに、ストック住宅(既存住宅)向け補助として「住宅省エネ2025キャンペーン」や「ZEHリフォーム支援」などもあり、自治体と国の支援を組み合わせることで、利用者のメリットを最大限高める仕組みが整えられている。
17年前の構想が実現へ
このように、国は太陽光発電の普及に意欲的な姿勢を見せているが、具体的に目標数値を示すようになったのは、08年7月開催の洞爺湖サミットで、当時の福田康夫首相が「2030年に住宅への太陽光発電採用を7割以上に」との構想を公表したのが初めてだ。その後、20年に当時の菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明し、改めて「2030年に新築戸建住宅の6割に太陽光発電を設置する」ことを目標として掲げるに至っている。福田元首相が示した「住宅」が新築のみか既存住宅も含むのかは不明だが、いずれにせよ17年前の政策構想が嚆矢となり、太陽光発電の住宅設置が急速に拡大しているのが現状である。
太陽光発電ではペロブスカイト太陽電池のような新技術の実証・実用化が進み、設置場所が屋根だけでなく壁面などにも広がることで、さらなる発電量向上が期待されている。蓄電池も、既存タイプに比べて安全性や性能寿命が長い全固体タイプなどの開発が進められるなど、技術革新への期待も大きい。一方で、廃棄太陽光パネルのリサイクル手法や蓄電池の長寿命化といった、新たな課題も顕在化してきた。こうした状況も含め、太陽光発電の普及はまさに転換期を迎えており、今後の展開が注目されるところだ。

【田中直輝】

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