野河内渓谷 清掃活動

 福岡市早良区の奥地に福岡市で唯一の渓谷であるスケールの大きな野河内渓谷がある。

 福岡市城南区の交差点から佐賀方面へ続く国道263号線、曲渕ダムを右手にして三瀬峠への第1カーブの突きあたりが渓谷の入り口である。

渓谷入り口の書道の達人が書いた案内板を磨く早良区役所職員 苔で見えなくなっていた 左手は三瀬峠越えの国道263号線
渓谷入り口の書道の達人が書いた案内板を磨く早良区役所職員
苔で見えなくなっていた
左手は三瀬峠越えの国道263号線

 脊振山系の井原山直下になる水無渓谷から湧水する豊富な水が野河内渓谷に流れ落ちている。水無渓谷駐車場の側に規模の大きな水無鍾乳洞があり、中は千畳敷と呼ばれる広大なエリアがあると聞いている。鍾乳洞に探検に入った人たちの遭難事故が幾度かあり、現在、入り口は閉鎖されている。ここからの湧水も水無渓谷に合流し、野河内渓谷へ水を注いでいる。従って水温は低い。

 野河内渓谷は、かつて避暑地として大変賑わった。記録をたぐると福岡市内から渓谷行きの乗合バスの写真も残っている。

 脊振の自然を愛する会では、この渓谷に2012年から数年かけ、全長約700mある遊歩道の鎖の整備や案内板設置などを行なってきた。「イラスト看板」「手づくりの木製渓谷見取図」「空き缶、空きビンはお持ち帰りください」などの表示板などである。

 野河内渓谷は山深く、狭いが大小の多くの滝、深い淵もあり、訪れる人を魅了する。筆者たちは毎年夏になると、沢登りで渓谷を楽しんでいたが、高齢ということもあり、2年前を最後に訪れていない。

 2020(令和2)年7月の豪雨による大規模災害で、この渓谷も土砂くずれや流木で崩壊し、数年間立ち入り禁止になっていた。最近ようやく修復工事が終了し、遊歩道を歩けるようになった。

 早良区役所主催の田んぼの稲刈りが終わったころ、毎年室見川一斉清掃が行われる。今年は11月16日(日)に計画された。我々は一斉清掃に協力し、室見川上流である野河内渓谷系の清掃を行っている。

 「池田さん、野河内渓谷の清掃はいつやる? 私たちは11月19日(水)にやろうと思っている」と交流のあるボランティア団体(福岡市水源林ボランティア)の知人から電話が入ったので、「我々もその日に合わせますと」と返事をした。

 会員を募ったところ、11月19日(水)に脊振の自然を愛する会から6人、早良区役所企画課の職員2名、計8名が参加し、渓谷の看板磨きを行うことにした。

 デッキブラシ、タワシ、バケツ、ゴム手袋、クレンザー(天然)、鋸、鎌など用意し、午前10時に野河内渓谷駐車場に集合し、早々に整備に取り掛かかる。

渓谷入り口のイラスト案内図を磨く 2016(平成28)年3月設置
渓谷入り口のイラスト案内図を磨く
2016(平成28)年3月設置
「空き缶、空きビンは持ち帰りましょう」の看板 看板業者に設置依頼
「空き缶、空きビンは持ち帰りましょう」の看板
看板業者に設置依頼

    「看板」や「案内板」「ゴミはお持ち帰りください」「木製の案内地図」など、どれも苔むして汚れていた。場所ごとに分かれ、それぞれ仕事に取りかかった。水は渓谷からバケツに汲み上げて利用。用意したペットボトルのスプレーを案内板にかけ、タワシやデッキブラシで磨く。汚れた滴が落ちてゆく。

 水源林ボランティアも5、6名参加し、渓谷の奥地まで空き缶や空きビンを集めていた。ゴミの量は少なく、大きなビニール袋半分以下だった。仕事慣れした彼らは40分くらいで引き揚げていった。

手づくり木製渓谷見取図内を磨く 横2m 縦1m 2012年設置
手づくり木製渓谷見取図内を磨く
横2m 縦1m 2012年設置

 2時間ほどで汚れた案内板や木製登山地図は蘇った。横2m、縦1mの木製渓谷案内図に「2012年設置 西南学院大学ワンダーフォーゲル部、早良区役所」と彫ってあった。思い起こせば2日間かけて手彫りで制作したワンダーフォーゲル部の学生や早良区長も参加し設置した渓谷案内図である。板を4枚組み合わせ1枚、1枚が反らないように裏に板の楔を打ち込んでいる。その日は椎原登山口に同じ大きさの登山地図を設置。RKBテレビが「山ガール特集」で作業に同行し取材していた。数日後、放映があったのを思い出した。学生たちは授業中に、教授に隠れてそっと携帯電話で見たそうだ。あれから15年が経っていた。

渓谷奥地の岩に電気ドリルで取り付けた表示板を磨く 「ダゴ岩」 足元にブリキの表示板が残っていた
渓谷奥地の岩に電気ドリルで取り付けた表示板を磨く
「ダゴ岩」 足元にブリキの表示板が残っていた

 渓谷の入り口に漆喰造りの大きな旅館「滝やま荘」がある。11月初め、登山帰りに昼食を頼もうと立ち寄ったところ、外国人が出てきた。滝やま荘を買い取り、リノベーションして旅館にする予定だという。所有者が数年前に他界し、アメリカ人の所有になっていた。流暢な日本語で答えてくれた。名刺を交換すると名前がプライズ・ロイと日本語で書かれていた。施設内は厨房も撤去され何もない状態だった。当日、部屋だけ心よく貸してもらえることになった。

 昼食はいつも利用しているJAワッキーが定休日のため、寒さ対策もありカップ麺とコンビニのおにぎりにした。水は渓谷に向かう途中、鮮魚店前の無料湧水を5リットルの容器に給水した。

 窓から滝が見える場所に8人分の席を用意してくれていた。久しぶりに使うガスコンロだ。参加メンバー8人でミニキャンプとなった。ガスコンロをセットし点火すると「ボーッ」と力強くガスバーナーが燃え始める。久しぶりに使う登山用のガス器具である。

 湯が沸き、カップ麺に湯を注ぐ。女性Sがスマートフォンのタイマーを3分にセットする。一度に8人分の湯は沸かせないので、3人分ずつ湯を注ぐ。3分経ちメンバーは久しぶりのカップ麺とおにぎりを頬張った。

 カップ麺とおにぎりを食べおわり、インスタントコーヒーとお菓子、Hがいつも持参するシャインマスカットを食べながらくつろいだ。ロイさんへのお礼に筆者の写真集と山開き記念タオルをプレゼントした。渓谷も参加者の心もきれいになった1日であった。

 ロイさんから、お礼のメールが届いた。

昨日は本当にありがとうございました。
皆さまが周辺をきれいにして下さって、とても感謝しております。
皆さんの雰囲気もとても良く、すばらしい時間でした。
それから、写真集と手ぬぐいを二枚もいただき、本当にありがとうございます。
妻と一緒に拝見しましたが、知っている場所の美しい写真がたくさんあって、とても嬉しくなりました。
どうぞ良い一日をお過ごしください。
またいつでもお越しになりたい時は、ご連絡ください!

 彼とは11月16日(日)、ももち浜公民館の文化祭で偶然再会し、文化祭終了後、日本人の奥さんと子どもをともなって挨拶にきてくれた。

 アメリカで弁護士をやっていて、日本にやってきたという。旧滝やま荘は瞑想と宿泊ができる場所として来年7月にオープンする予定で、名刺には「山荘透雫」とあった。日本語も流暢でメールも日本語でOK。人あたりの良い素敵な人だった。また新しい友人ができた。

脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

関連キーワード

関連記事