フジテレビ騒動が暴いたテレビ局の腐敗とジャーナリズムの危機(前)
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『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏
タレントの中居正広の「性的トラブル」発覚から始まったフジテレビの大騒動は、オールドメディアであるテレビ局のコンプライアンス軽視とガバナンス欠如を暴き出し、旧態依然とした統治システムの腐敗が救いようのないところまで進んでいることを満天下に知らしめた。
しかし、こうした問題を抱えているのはフジテレビ一社だけではない。この“事件”がテレビ時代の終わりを告げることになるのか、問題の本質がどこにあるのか、私見を交えて考えてみたい。(以下、文中敬称略)文春砲が暴いたフジテレビの闇
今年も年初から週刊文春の「文春砲」が火を噴いた。昨年は、お笑い芸人・松本人志の「性加害問題」を報じて、松本をテレビから放逐した。
今回の中居正広の「性的トラブル」報道は、女性セブンが初めに報道したが、文春(1月2・9日号)が後追いを始めてから大きな注目を集めた。中居は元ジャニーズ事務所所属で日本一のアイドルグループ「SMAP」のリーダーだった。解散してジャニーズ事務所から離れたが、多くの冠番組を持つ超売れっ子である。
その中居が、2023年6月にフジテレビ関連にいた女性アナを自宅に呼び出し、彼女との間で性的トラブルを起こしたというのである。
しかも、双方が代理人を立て、中居側が解決金として9,000万円という途方もない金額を払い、この件に関しては一切口外しないという「口外禁止条項」まで結んでいたというのである。
では、口外禁止条項を結んだのに、なぜ、そうした醜聞がメディアに流れてしまったのだろうか。朝日新聞Digital(1月27日 16時00分)はこう説明している。
「たとえば口外禁止条項の内容がメディアに報道されたとしても、口外禁止条項の取り決めにそれらのメディアが拘束されるわけではないため、当事者の名誉を不当に傷つけるものでなければ報道の法的責任が問われることはありません」
文春は第一報で、「事の発端は、松本と中居が信頼を寄せているフジテレビの編成幹部Aが、中居に飲み会をやろうと持ち掛けたことだった。2人とAの知る“芸能関係”の女性3人で会食するはずだったのに、Aがドタキャンしたため中居と女性だけで始めたという。
ところが途中から、『2人の間に深刻な問題が発生し、トラブルに発展してしまった。密室の出来事なので詳細はわかりませんが、女性の怒りはおさまらず、一時は警察に訴えることも考えたほどだったといいます』(事情を知る関係者)」と報じた。
しかも、彼女は、Aに仕組まれたとフジの幹部3人に被害を訴えたが、聞く耳をもたなかったというのである。
それが事実なら、フジテレビは事件が起きた直後に、中居と彼女とのトラブルを知りながら、中居を問い詰めることもなく、中居の番組を放送し続けていたことになる。
しかもフジテレビは、文春が出た後すぐに声明を出し、《このたび一部週刊誌等の記事において、当社社員に関する報道がありました。(中略)内容については事実でないことが含まれており、記事中にある食事会に関しても、当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません。》と猛反論したのである。
しかし、文春報道の余波は大きく、他のテレビ局は中居の番組を急遽、他のものに切り替えるなどの対応を始めた。
文春は次号(1/16日号)で、事態に向き合わず、まるで他人事のような対応に終始するフジに対してX子(被害に遭った女性=筆者注)が、こう言葉を吐き出したという。
「Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません」さらに、X子の知人は、「Aさんのせいで……」っていう子はたくさんいるが、ある女の子がフジのコンプライアンス関連部署にAさんがやったことを報告し、LINEなどの証拠も出したのに、「監視カメラなどの物的証拠がないからダメ」「周りの証拠が必要」といわれ潰されたと話している。
女子アナの『上納システム』とテレビ局の腐敗
フジテレビには女子アナをタレントたちに「上納」するという悪習があり、そのために被害を受け悩んでいる女性を守るどころか、逆に口を噤ませてしまう重大なコンプライアンス違反があるというのだ。
一方、中居のほうは声明を発表して「トラブルがあったことは事実です」と認めたものの、「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」と余計な一行を付け加えたことで激しいバッシングを受け、その後、引退を余儀なくされるのだ。
フジテレビの港浩一社長は追い詰められ、1月17日に会見を開いた。だが、クラブ所属の記者たちだけの閉ざされた会見にしたことが激しく批判された。
会見後、明治安田生命や日本生命、トヨタ自動車、NTT東日本などが自社のコマーシャルの差し止めを始め、その数は数百社にもなっていったのだ。
フジテレビという会社は、他のテレビ局に先駆けて女子アナをアイドル化することを社の方針としてきた。
早い話、彼女たちを有力タレントたちのキャバクラ嬢に仕立て上げたのである。その方針に従う者は視聴率の良い番組に出られ、従わない者は早々に女子アナ枠から外される。00年代初めごろ、私が講師をしていた法政大学の編集学の授業に、当時のフジテレビのアナウンス部長を招き、話をしてもらったことがあった。
彼は開口一番、「フジテレビはブスは採りません」といった。
女子アナ志望の学生も多くいたが、皆、ボー然としていたのを思い出す。女子アナという言葉は、1980年代から使われ始めたといわれているようだ。フジテレビに河野景子や八木亜希子、有賀さつきなどが入社した頃だ。その後も数々のアイドル女子アナが誕生しているが、2001年に入社した“アヤパン”こと高島彩が活躍していたころが最盛期ではなかったか。
しかし、女子アナをアイドルにすれば視聴率がとれると気付いた他局も競って美人女子大生を漁り出し、フジの一強体制は崩れていったのである。
(つづく)
<プロフィール>
元木昌彦(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。
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