海外進出で注目のロシア、ウラジオストク出店に潜むハードル
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日本に最も近いヨーロッパ
農林水産省やJETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)が、ロシアへの中堅・中小企業の進出を呼びかけるなか、九州においても中小企業経営者による視察旅行やビジネス進出に関するセミナーが実施されたとの話を耳にする機会が増えている。とくに、極東ロシアの都市・ウラジオストクは、特区制度が2015年10月に施行され、進出企業には、免税措置や企業登録・事業許認可の簡素化、流通整備・融資・労働力確保への協力などの優遇措置が設けられており、進出を検討する企業も少なくはないようだ。
ウラジオストクを視察した企業経営者は、「電気、ガス、水道といった生活インフラや道路の整備が行き届いていない。インフラ関連の企業の進出が先ではないか。ただし、街では、走っている自動車がほとんど日本車であり、『メイド・イン・ジャパン』に対するロシア人のニーズが高いことを実感することができた」と分析する。西洋建築の街並みに加え、本場サンクトペテルブルグの有名バレエ団を鑑賞できる劇場、水族館や博物館など観光スポットが新設された。「日本に一番近いヨーロッパ」として、日本からの観光客の増加とともに、今後、精神的な距離感はますます縮まっていくだろう。
食品衛生や労働環境の規定に困惑
実際に、ウラジオストクに進出した福岡市の企業を取材した。福岡市を中心に23店舗の飲食店を展開するアトモスダイニング(株)(本社:福岡市中央区、山口 洋 代表取締役社長)は、2012年、ウラジオストクに居酒屋「恵比寿」をオープン。山口社長によると、出店時には、関連法規のハードルが高く、日本では考えられないような苦労があったという。たとえば、食品衛生面では、肉、魚、野菜のそれぞれに調理場や保管庫が求められたり、労働環境面では、従業員用のトイレやシャワールームなどを設置しなければならなかったりするなど、店舗設計に関して細かい規定があった。
その苦労を差し引いても開発が進むウラジオストクは、これから爆発的に拡大していくマーケットとしての期待が大きい。「恵比寿」では、現地人向けに料理の味付けの工夫はしているが、もともとの日本食人気が高く、カジノホテルの開業にともなう観光客の増加などもあり、16年には、4,100万ルーブル(約8,000万円)の売上を計上したという。
JETROでは現在、「ロシア中堅・中小企業プラットフォーム」として、政府機関、地方自治体、金融機関などを幅広く結集し、ロシアへの展開を目指す日本の中堅・中小企業などに総合的な支援を行う枠組みを設けている。具体的には、全産業を対象に、現地の事情に精通した専門家によるサポート、ロシア企業との商談、販路開拓、契約に至るまでの支援が行われるという。アトモスダイニング社が経験したような法的ハードルは、ロシア進出を図る中小企業にとって大きな障壁だ。実情に即した現地の規制に関するわかりやすい情報提供や、場合によっては、その緩和について政府間で調整を図ることも必要ではないだろうか。
【山下 康太】
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