タックスヘイブン・パラダイス文書報道は盗難文書のたれ流しか
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パナマ文書に続き、タックスヘイブン(租税回避地)に関する新たな文書が大量に流出した。「パラダイス文書」と名付けられたこの文書は、英領バミューダ諸島の法律事務所「アップルビー」など複数の組織から内部流出したもので、その数は1,340万件にも及ぶ。
これらは11月5日、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)を通じて一斉に各国メディアで報道され、新聞やテレビですでに大きく報道されていることはご承知だろう。
この文書には多くの政治家や有名人が掲載されており、特にロス米商務長官と関係の深い海運会社と、ロシアのプーチン大統領の親族や側近が実質オーナーの石油会社と取引をしていることがわかり、トランプ政権の新たなロシア疑惑として米国のメディアでも大きく取り上げている。
その他、エリザベス英女王や、歌手のマドンナ氏、U2のボーカリストのボノ氏、日本では「ドラゴンボール」で人気の漫画家・鳥山明氏、鳩山由紀夫元首相などの名前が掲載されているため、多くの関心を集めているのだ。
そもそもタックスヘイブンとは、法人税や所得税がゼロ、または極端に低い国や地域のことで、カリブ海の英領バージン諸島、ケイマン諸島、富裕層への税優遇制度の手厚いオランダやアメリカのデラウェア州などがある。
これらの存在は以前から知られていたが、大きく注目されたのは昨年の「パナマ文書」。これもパラダイス文書同様、パナマの法律事務所から流出した文書で、この時も各国の政治や有名人の名が挙げられ、批判を浴びた。
無理もない。一般的な庶民は給与から源泉徴収されるため租税回避はできないにもかかわらず、富裕層や大企業がタックスヘイブンをうまく利用すれば税金を合法的に逃れることができるのだ。しかも、情報の秘密性が高く課税機関に漏洩しないため、いい隠れ蓑となる。そのためマネーロンダリングのような犯罪の温床にもなっているのだ。
とはいえ、先のパナマ文書といい、今回のパラダイス文書といい、名前の挙がった有名人の場合の多くは、資産運用や投資、節税といった類のもので、今のところ違法性は見当たらない。
実は、ここに「タックスヘイブン報道」の限界がある。そう指摘するのは元ロイター通信記者で、国際問題に詳しいジャーナリスト山田敏弘氏だ。
「今回、マドンナさんのことは米国でも報道されましたが、単に医薬品関連会社の株を持っていただけです。それをパラダイス文書に名前があったことを理由に大きく報道すると、違法行為をしたかのような印象を与え、名誉毀損で訴えられかねません。そのため、アメリカ本国ではもうほとんど報道されていないのです。つまりタックスヘイブンに関するものは基本的に合法なので、つつきようがないんですよ。だから重箱のスミをつつくような報道しか出来ないんです」
確かに、エリザベス女王の場合もバミューダ諸島のファンドへの投資だったし、鳥山氏も米国に設立された不動産リースの投資事業組合に出資していただけ。鳩山氏も、バミューダ諸島に設立され資源会社の名誉会長を政界引退後の2013年から務めているというだけだ。報道がイマイチ盛り上がらない理由はここにある。
そして、もうひとつ問題がある。
「パナマ文書もそうですが、パラダイス文書もハッキングによって何者かに盗まれた文書であるということです。ICIJの日本での加盟社はNHK、朝日新聞、共同通信だったため、日本ではこの3社が報道を独占していますが、盗まれた文書の中身を公開していることには違和感を覚えます。流出先のアップルビーが“ハッキングされてデータを盗まれた”と表明しているとはいえ、流出元の文書に間違いがあっても、そのウラを取りようがありません。果たしてこれを適正な報道といえるのか」(前出・山田氏)朝日新聞のホームページを見ると、「疑惑の島」というパラダイス文書の特設コーナーを組んで、わざわざ記者がバミューダ諸島まで飛んで取材している様子を、動画まで交えてことさら仰々しく報道している。
確かに今までタックスヘイブンの実態はその秘密性からなかなか掴むことができなかった。流出した文書を端緒にその謎に迫るという姿勢は理解できるが、文書のどの部分がどう問題なのかを指摘しないまま文書の内容を書き連ねている様は、少々浮かれすぎではないだろうか。
【Net-IB編集部】
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