2024年11月25日( 月 )

福岡のすごい人に会ってきた 数学とビールを愛して~中学男子的熱情研究(後)

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九州大学マス・フォア・インダストリ研究所 准教授 千葉 逸人 氏

 ――数学の難問を解く、ってどういう頭の動きをしているんですか? 数式などが頭の中に浮かんでいるのでしょうか。

千葉 逸人 氏

 千葉 イメージが浮かぶこともあれば、数式も使います。わからないから考えているわけで、ほとんどの場合で何から手をつければいいのかすらわからない。なんとなく道筋が見えている状況もありますが、まったくわからない状況のときはイメージを膨らませる感じですね。一般の方は、数学者って数式を使って仕事をしていると思っていますが、実は数式に落としこめている段階ってすでになんらかの答えが出ているときです。これは作曲と似ていて、作曲家が音符を書き始めたときにはもう曲が頭の中にありますよね。音符を書けるかどうかではなく、曲をイメージできるかどうかはセンスの問題。数学もこれに近いでしょう。

 ――イメージ力こそ数学者の証なんですね。ということは、いくら努力をしても数学者になれない人はいる?

 千葉 それはあると思います。ただ、世界トップレベルの数学者ならいざしらず、普通の数学者になるなら努力がものをいう世界でもあります。まわりは私のことを才能があると思っているようですが、自分自身はまったく才能があるとは思っていません。というのも、小中高とクラスで1番の成績だったわけではないし、大学入試では浪人もしています。工学部だったので大学の1、2年生の時期は数学の専門的教育も受けていません。でも、数学が好きだから独学で勉強していたし、大学に入ってからは人の何倍も勉強したという自負はあります。

 ――数学のおもしろさってなんですか?

 千葉 黙々と、自分の世界にこもって1つのことを考え続けるのは昔から好きだったので自分にはむいているのでしょう。おもしろさは……真理というか物事の本質というか。われわれは通常10進法でものを数えますが、何進法を使ったとしても素数は同じなんです。人類が10進法を使っているのは手の指が10本だから、っていわれることがありますから、異星人がいて指が8本なら8進法かもしれない。でも素数の配列は何進法でも同じなので、はるか彼方の違う文明であっても知的生命体であれば素数を理解して共通点を見つけ出せるはずです。そういったところに真理というか、文明や言葉、生物の種類に依存しない概念を探求しているという感覚はあります。

 ――数学の理論って、どうやって考えているんですか。

 千葉 始めはモヤモヤっと考えるんですけど、1発では考えつかない。山があるとし、頂上にたどりつくルートはふもとからは見えないですよね。通常のルートで行ってみる、紙に書いて考えてみる、それを検証してだめならまた別のルートを考える。それを何十回も繰り返して、頂上までのルートを見つけるかもしれないし、見つけられなければ自分で新しい道をつくることもできる。天才のようなひらめきは少なくとも僕にはありません。試行錯誤をずっと繰り返しているだけで、才能があるとしたらその試行錯誤に飽きないことかもしれません。

 ――大学の先生としての仕事は数学の邪魔にならないですか。

 千葉 授業自体は学生と仲良くなれるので好きなんですけど、朝早くの授業はめんどくさいなーみたいな……。

 ――Twitterには、ビールと千葉先生のおつれあいの話がよくでてきますね。

 千葉 お酒自身は昔から好きだったんですけど、ビールのことを専門的に始めたのはここ5年くらいです。妻はまったく数学のことはわからないし、家で数学の話をすることもありません。飲み友だちとして知り合って、博士課程のころからの付き合いだから1日中数学に没頭している僕を間近で見ています。「数学者はそんなものなんだろう」と思ってくれているのかも。


 ふざけた動機で実現したオフ会だったものの、千葉先生の話の端々で垣間見えたのは数学にかける深い情熱、そして数学者としてのプライドだ。

 「数学者って、テストで満点とるような人間とはちょっと違うかも。たとえば大学受験に特化した公式なんか知らないし、知っていても意味がないので忘れてしまっています。でも、もし解かなければいけない状況になれば、その場で公式を見つけ出すことができる」

 (素数のしくみがわかってしまったら、暗号技術が無効化するのでは、という問いに対して)「大丈夫です。そのときはもっと解けないような暗号をつくってみせます」

 どうです? 自分の仕事についてこれだけの自信と自負を持っている人なんて、そうお目にかかれるものではないでしょう。「(寝ているときも含めて)1日中数学をしている」という千葉先生の言葉でわかるように、数学者というのは「なりたい」からなるものではなく、数学に対する止めようのない熱情に突き動かされた「生き方」なのかもしれません。その純粋さは、中学男子が喜々としてう〇この話をする姿と似ているようで、Twitterの内容もさもありなんといったところ。
 研究の話は、先生が「中学生に話すつもりで」教えていただいたおかげで、少しは……すみません。ほとんど理解できませんでしたが、たぶん酔っていたせいでしょう。

(了)

千葉先生の著書『工学部で学ぶ数学』(プレアデス出版)をサイン入りでプレゼントします。ご希望の方はメール、もしくはFAXで、1.氏名、2.郵便番号、3.住所、4.電話番号、5.年齢、6.職業(会社名、所属)、7.NetIBのご感想をご記入のうえ、件名に「ビール大好き千葉先生本 係」と明記し、下記メールアドレスまたはFAXにてお送りください。
お申込み専用アドレス:hensyu@data-max.co.jp
FAXの場合はこちら 092-262-3389(読者プレゼント係宛)

<プロフィール>
千葉 逸人(ちば・はやと)
1982年生まれ。久留米市出身。市内公立中学校から県立明善高校を経て京都大学工学部物理工学科卒業。同大学院情報学研究科数理工学専攻博士後期課程修了(情報学博士)。九州大学数理学研究院助教などを経て、2013年に九州大学 MI研究所准教授就任/13年:第2回藤原洋数理科学賞奨励賞、16年:文部科学大臣表彰若手科学者賞
公式サイト:http://www2.math.kyushu-u.ac.jp/~chiba/
Twitter:https://twitter.com/HayatoChiba

 
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