「基地隠し」で生まれた名護市・新市長~民意は反映されたのか(後)
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沖縄県名護市長選は、政府が実現を急ぐ米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題が大きな争点となり、全国的な注目を集めた。2月4日に行われた投開票では、基地容認派の渡具知武豊氏が勝利。自公政権の総力をあげた支援体制で手にした勝利だがしかし、渡具知氏に市長として辺野古移設手続きを進める資格があるのかは疑問だ。渡具知氏は選挙期間中、いっさい基地問題に触れることがなかった。
「あきらめの島」が選択する未来は?
政府は、辺野古への米軍基地移設について、すでに00年度から09年度までの10年間に約1,000億円を北部振興事業に投入している。ばらまき、と言っていい大盤振る舞いだが、実態はハコ物事業が多いため維持経費負担が市財政にのしかかっている。さらに建設業の利益配分でもめた保守層の一部が革新側についたため、8年前の名護市長選では初めて稲嶺氏が勝利した。
渡具知氏が名護市長になることを、「時計の針が稲嶺市長前に戻ったようだ」と話す名護市民もいる。別の視点でみれば、補助金頼みが習い性となっている地元民の間でくすぶる本音の部分、つまり稲嶺氏が8年かけても解決できなかった現実を突きつけられたともいえる。一方で、辺野古の基地移設問題をおくびにも出さない渡具知氏の戦略は諸刃の剣でもある。基地反対の民意からあまりにも乖離し続けることはリーダーの資質を問われかねず、さらに「政府の操り人形」といった批判が渡具知氏持前の攻撃性に火をつけるのも時間の問題だ。
沖縄出身の芥川賞作家、目取真俊氏は、沖縄のことを「あきらめの島」と表現する。古くは中国、そして薩摩、日本、アメリカの支配を経験し、世界の列強のはざまで生きる術を身に着けるほかなかった。小さな島国である琉球・沖縄が大国に抗ったとしても到底勝つ見込みはない。みすみす負けるとわかっている戦いですべてを失うより、ある程度迎合してでも何かを得るべきではないか。そういったあきらめの感情は、長く基地の隣で生活することで基地への親しみという感情に化学変化を起こすこともある。時折本土住民がもらす「アメリカや基地のことが好きな沖縄の人も多い」という発言は、自らに都合の良い事実しか見ようとしない無責任さの発露だ。
14年に保革が相乗りする「オール沖縄」が翁長知事を誕生させたことは、沖縄が今後取るべき道を指し示している。沖縄の観光産業は01年アメリカ同時多発テロ事件「9・11」の発生によって大打撃を受けた。いざ有事が迫った状況で、危険な場所、つまり基地のある島に観光客を呼ぶことはできず、沖縄経済界は「観光業は平和産業」であると身をもって知ることになった。実際、基地が返還された跡地の再開発は好調で、税収などあらゆる指標で経済発展を遂げている。すでに沖縄の有力経済グループはアジアに目を向けており、台湾、韓国、中国からの観光客を呼び込むためにも基地は必要ないという方向性で一致している。40年前なら基地による恩恵を選んだであろう地元経済界が、基地跡地再開発による経済発展の可能性に賭け、保守経済界が反基地に転じたからこそオール沖縄体制が実現して翁長知事が誕生したのだ。
翁長知事は常々、「那覇と県中南部の開発はほぼ終わった。次は北部だ」と発言している。今後は名護市を中心とした北部経済の発展が課題であるのに、そこを基地に占拠されてオスプレイが飛ぶようになれば、沖縄はまた補助金漬けの道を選ぶしかなくなるだろう。
反基地運動の命運かかる県知事選
今回の選挙結果が普天間飛行場の辺野古移設容認の流れを生むかは、まだ不透明だ。昨年10月の衆院選挙では、沖縄県4小選挙区のうち3つの区で移設反対派の野党系候補が移設容認の自民党候補を破っている。また、今年1月の南城市長選でも「オール沖縄」が支援した候補が僅差で与党系候補を退けており、基地移設反対派が依然として強い勢力を維持しているのは間違いない。
沖縄における基地問題は、相次ぐ米軍機事故や16年に名護市で20歳の女性が元米海兵隊員に殺されるなど、常に抑圧の記憶を喚起するような状況のなかにある。日本との関係においても、日米安保条約の負担を沖縄に押し付けている現状に改善のきざしはない。
翁長知事は国との対決姿勢を強めており、次の県知事選挙が翁長県政に対する信任選挙の性格を帯びることは間違いない。名護市長選にも増して、国vs沖縄県の対立構造が鮮明になり、基地問題の行方をかけた決戦の場となるだろう。前哨戦である今回の名護市長選の結果が県知事選にどう影響するのか。渡具知氏は早くも6日に、在日米軍再編交付金を受け取る意向を示した。「札束」効果を知事選の足がかりにしたい政府だが、風紀がゆるみきった在沖米軍が次に重大事故・事件を起こせば、全県規模の反基地運動に発展する可能性が高い。沖縄県知事選挙は今年11月に行われる。
(了)
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