平昌五輪閉幕 水面下で激しく動く朝鮮半島(後)
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古くはナチスのショーウィンドウと化した1936年のベルリンオリンピック、泥沼の日中戦争で開催できなかった1940年の東京オリンピック、そして冷戦期では東西両陣営がボイコット合戦を繰り広げた1980年モスクワ、1984年ロサンゼルス。「平和の祭典」であるはずのオリンピックは、その時代の国際政治に大きく左右されてきた。平昌オリンピックもまた、主催者による露骨な政治利用が目立った。一方で、オリンピック・パラリンピック期間は、北朝鮮核問題にとっては「休戦期間」。3月のパラリンピック終了後、事態はどう動くのだろうか。
高まる不信感
朝鮮半島を「分断国家→統一志向」の視角で見る日本のメディア報道も、修正を図った方がいい。南北の「分断」状況は、双方の政権と国民の都合でこうなったのである。1945年の「解放」以来、すでに72年だ。日本の植民地支配の期間の2倍にもなった。南北が「統一」スローガンを「道具」として駆使する傾向は、双方の政権自体の思惑によるものであると認識した方がいい。
北朝鮮は「南北連邦制」を主張する。これは実質的には南北の体制を固定したまま、南からの栄養分を北に吸い上げようという戦略だ。核爆弾とICBMの「完成」によって、北朝鮮は韓国の経済力に匹敵する軍事力を保持しつつある。隣国の日本としては、北の核戦力と南の経済力が、「南北連邦制コリア」の共有する武器だと考えた方がいいだろう。
米トランプ大統領は愛娘をソウルに派遣して、北朝鮮に寄りすぎた韓国の引き戻しにかかっている。ソウルを訪れた金与正に対して「核」の一言も言及しなかった文在寅政権に対する不信感が高まっているというしかない。問題は、平昌パラリンピック(3月9日〜18日)の終幕後だ。米韓合同演習の延期という大義名分は失われる。その時点になっても、文在寅政権は相変わらず北朝鮮への追従政策を続けるのか。
金正恩と北朝鮮の命運
五輪閉幕を控えて、国際政治の舞台裏が明らかにされつつある。ペンス米副大統領はソウル滞在中に北朝鮮側との接触を試みたが、北側の一方的なキャンセルによって霧散したという事実が、米側によって暴露された。北側の抗弁によると、副大統領が北を刺激する言動をソウルで繰り返していたからだという。いかにも「体面の国」らしい口実だ。朝鮮半島の孤立国家が核兵器を手に入れて、世界情勢の判断を誤りつつあるという印象を持たざるを得ない。
金正恩による核兵器「完成」宣言は、戦前の日本でいえば、満洲事変(1931年)に相当する。当時の日本は、関東軍の勝手な行動をコントロールできず、自滅への道を歩み始めた。現在の北朝鮮がさらに核実験・ICBM実験の再開という「錦州爆撃」「熱河省侵攻」に相当する動きに出れば、国際社会からの追放状が届くことは必至だ。
戦前の日本は、ドイツ・イタリアとの同盟強化で切り抜けようとしたが、現在の国際社会ではロシア、中国といえども北朝鮮にまるごと同調するようなことはないだろう。北朝鮮に「2018年の世界」がリアルに認識されているのか。金正恩と北朝鮮の命運はそこにかかっている。
(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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