2024年11月28日( 木 )

米朝首脳会談に沈黙する北朝鮮、金正恩の「独断」で自滅?(後)

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「非核化」はあり得ない

 トランプ政権はティラーソン国務長官の解任など政権内部の不協和音が拡大している。日本の安倍政権は、森友問題の火花が財務省による文書改ざんの事態へと拡大した。国民の内閣支持率は急激に低落し、9月の自民党総裁の3選にも黄信号が灯った状態だ。韓国の文在寅政権は一連の行動が国内で評価され、支持率は70%台という「絶頂期」にある。平壌政権との巧みな協同プレイが功を奏しつつあるといえる。

 ところが、肝心の平壌政権の動向は、依然として不透明である。
 「非核化の意思」が韓国特使によって伝えられたものの、これを裏付けるような北朝鮮側の態度の表明は、依然として行われていないのだ。平壌の国営メディアは南北首脳会談や米朝首脳会談について沈黙したままなのである。この国の特異性(情報閉鎖の独裁国家)からして、それをただちに不審だとすることはできないが、それにしても異様な沈黙ぶりが目立つ。
 ここで再確認しておくべき事柄は、少なくない。

 まず、北朝鮮側の「非核化の意思」は、いずれも韓国特使の発言でしかないという事実だ。北朝鮮側としては「そのような発言はなかった」と簡単に否定できる代物だ。北朝鮮の核武装は、金日成の時代以来、親子三代にわたる悲願であった。自ら起こした朝鮮戦争の際、米軍の猛爆撃によって散々な目に会った平壌の政権は、南北合意や六カ国合意によって真意を隠蔽しつつ、核開発を急いできた。その核開発が完成段階にきた現状で、北朝鮮による「核武装の放棄」はあり得ない選択なのである。
 「非核化」が周辺国が期待するような核兵器の全面廃棄を意味するものか、あるいは単なる核実験やICBM発射の中止を意味するものか、定かではない。また、その前提にされているという「北朝鮮の体制保障」も、具体的には何かということになると、まったく不分明なのである。

金正恩の決断

 今後、2カ月間で南北コリアはどう動くだろうか。
 4月の南北首脳会談は文在寅政権にとっても、重大な岐路に立つ会談である。金大中以来の左派政権としての決算を図る会談でもある。韓国左派政権の南北交渉の眼目は、南北共同体国家(北朝鮮の用語では、南北連邦制国家)の形成にある。南北の政権が従来の体制を維持したまま、ゆるやかな連合(連邦)を結成することによって、相互の利益を図ろうという構想だ。

 北朝鮮の核武装の完成、韓国の文在寅の誕生は、この目標を達成するための好機だと、南北両政権は考えているだろう。これが4月の南北首脳会談の眼目なのであり、「南北コリアの非核化」は言葉による言及にとどまると見られる。それが南北両国家にとっても戦略的な意義があるからだ。

 4月の南北首脳会談の朝鮮戦争終結宣言によって、南北連邦制(南北共同体)機運を盛り上げて、5月の米朝首脳会談に備える戦略だと見る。文在寅政権は北の企みに乗り、米国の暴君のご機嫌取りに走る。南北コリアの熱気(民族ポピュリズム)が異様に盛り上がり、半島の非核化が色あせた時、周辺国家は南北コリアへの締め付けを強化する。

 核武装は北朝鮮延命の最終兵器である。ここが依然として重要なポイントだ。米国との戦争の最終局面で、大日本帝国は昭和天皇の「聖断」によって、内部崩壊の危機を乗り切ったが、足並みが揃わぬ「金正恩の決断」は自滅の危機をはらんでいる。

(了)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

 
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