危機一髪！ データ・マックスvs悪の秘密結社（前）

（株）悪の秘密結社　代表取締役　笹井　浩生　氏

　すべての男の子たち、そしてかつて男の子だった「オトナのコ」の心をわしづかみにする言葉がある。「秘密結社」。「団体」や「会社」では物足りず、結社と名乗るからには何かよからぬことを企てているに違いなく、さらに「秘密」と念押しするわけだから、およそ公にできない事情がある団体なのだろう。
　そんな心震わす秘密結社で、あろうことか「悪の」秘密結社と公言するけしからん団体が福岡市を本拠地に暴れまわっているという。しかもその秘密結社は株式会社だというから穏やかではない。コンプライアンスはどうなのか、決算書に不審な点はないのか……などなど、疑問は尽きない。そこで企業調査会社でもあるところの弊社が実地調査に挑むべく、（株）悪の秘密結社「首領」に面談を申し込んだところ、意外にも非常にていねいな文言で承諾のメールが届いた。記者は戦々恐々としながらも、同結社が本拠地を置く天神の親不孝通りに乗り込んだ。

「青年実業家」風の笹井氏。机には「悪者」の文字が…

　「まず初めに私は悪の首領ではございません･･･。代表取締役、普通の社長でございます」。涼し気な目元、どこか「チャラ」要素を感じさせる髪型。颯爽と現れた好青年は、開口一番にこやかにそう宣言してみせた。ちなみに、同結社の「真の」代表取締役社長は同社の看板キャラクター「ヤバイ仮面」なのだという。

　笹井浩生、福岡市出身の28歳。「（株）悪の秘密結社」の社長であり、創業者でもある。悪の秘密結社は、ヒーローショーに特化したイベント会社だ。一度耳にしたら忘れられない社名のインパクトも含め、「真面目にふざける」ことが社是であり、笹井氏の行動基準でもある。

　高校時代にアルバイトで出演したヒーローショーで、普段の自分とはまったく違う「悪役」になり切ることの快感に痺れた。2016年に同社を設立すると、悪役専門としてのヒーローショー受注の後押しもあって業績を伸ばす。自治体のゆるキャラ企画とのコラボや各種イベントなどに出演して知名度を高め、昨年はついに本拠地・親不孝通りの公認キャラに任命された。
　秘密結社の「構成員」たちは日々、ヒーローショーを演じるための稽古を欠かさない。定期的に劇場公演も開催しており、ヒーローに声援を送る純粋なお子さまファンからコアなマニアまで、秘密結社の支持層は増え続けている。

表と裏の社長ふたり

　テレビや映画で活躍する変身ヒーローは通常、ヘルメット状のマスクで顔を隠し、さまざまな装飾付きのスーツを着ている。その「中の人」はスーツアクターと呼ばれており、笹井氏によると日本のスーツアクターは単なる「中の人」ではなく、繊細な技術を身に着けた「職人」だという。
　通常の演技と違って顔の表情で感情表現することができないため、スーツアクターはヒーローの怒りや悲しみなどの心の動きを体の動きだけで表現しなければならない。熟練者は、頭部のちょっとした角度や手の位置、パンチを繰り出したときの絶妙な「残心」などで見事にそれをやってのけるが、初心者はたとえ同じポーズをとったとしても、どこか取ってつけたような不自然さがあるのだ。その繊細な動きのノウハウは、日本独自ともいえる「特撮ヒーロー」文化に携わった演者たちが、半世紀以上にわたって受け継いできた伝承芸といってもいい。

　「テレビ番組でヒーローを演じているスーツアクターは、この業界では超一流の方々ばかりなんです。1つひとつの動きを計算づくで演じ分けていて、ヒーローの感情を子どもたちにもわかるレベルで見事に表現することができます。われわれからすれば、まさに『神の領域』です」（笹井氏）

（つづく）

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