2024年11月13日( 水 )

H.I.S澤田秀雄社長への提言~後継者はお決めになりましたか(前)

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 旅行会社大手のエイチ・アイ・エス(H.I.S)会長兼社長で、長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボス(HTB)社長を務める澤田秀雄氏は今年3月末、たった1人で3カ月から半年間の世界旅行に出た。秘書などは同行しない。上場企業のトップが長期間にわたって1人旅をするのは極めて異例だ。アイデア力を充電するためだという。実は、この1人旅には秘められた大きな狙いが込められている。

航空業界に風穴を開けた風雲児

 インターネット黎明期の1999年、日本は空前のベンチャーブームに沸き立っていた。
 H.I.Sの澤田秀雄氏、ソフトバンクの孫正義氏、パソナの南部靖之氏のベンチャー三銃士が、「平成世直し劇、いでよ龍馬」の寸劇を演じた。幕末の志士たちが黒船来航で立ち上がったように、インターネット時代の到来を迎え、ベンチャー起業家よ立ち上がれと先輩諸氏が檄を飛ばした。ベンチャー三銃士は、いずれも規制に挑戦した起業家たちだ。

 「航空業界に風穴を開けた風雲児」。澤田氏は、そう賞賛されていた。
 1998年9月19日、スカイマーク(SKY)の一番機が羽田から福岡に向けて飛び立った。JAL(日本航空)、ANA(全日本空輸)、JAS(日本エアシステム、2002年に日航と経営統合)の3社の寡占体制に風穴が開いた瞬間だった。35年ぶりの新規航空会社を立ち上げた男、それが澤田秀雄氏である。

 その原点は「旅」にある。
 澤田秀雄氏は1951年2月4日、大阪市生野区の生まれ。大阪市立生野工業高校を卒業後、1973~76年まで、旧西ドイツのマインツ大学経済学部に留学。留学中にアルバイトで稼いだ資金を元手に、ヨーロッパはもとより、中東、アフリカ、南米まで50カ国を旅して回った。その放浪のなかで、初めて格安航空旅行券なるものに出会った。正規料金の半額以下。こんな安い航空券があることが、新鮮な驚きだったという。
 1980年12月、東京・新宿西口で学生向けの格安旅行代理店、インターナショナルツアーズを設立。それが現在のエイチ・アイ・エス(H.I.S)である。格安旅行券は売れに売れ、H.I.Sは急成長、1995年3月には株式を店頭公開した。
 資金を手にした澤田は、1996年2月にスカイマークエアラインズ(2006年10月、スカイマークに商号変更)を設立、念願の航空業界に進出した。1998年に就航した格安運賃のスカイマークは爆発的な人気を得た。座席予約が殺到し、羽田-福岡便のチケットが手に入らないほどのフィーバーぶりであった。
 だが、内心では「大変な業界に足を踏み込んでしまった」と後悔した。航空事業は特殊な世界であることを思い知らされたからだ。自著『H.I.S 机2つ、電話一本からの冒険』(日経ビジネス人文庫)でこう回想している。

〈人材確保の困難は地上業務のプロフェッショナル以外にもパイロットや乗務員、さらに整備スタッフなどあらゆる業務にふりかかってきた。1機飛行機を飛ばすのに250人必要なスタッフを、会社を立ち上げて最初の1年間はたったの30人しか確保できなかった〉

 就航しても、採算ベースを維持するのは困難だった。債務超過に陥り、上場廃止の危機に追い込まれた。澤田氏は、2003年9月、スカイマークをベンチャー起業家の西久保愼一氏に売却した。苦い経験となった。
 航空事業から撤退した澤田氏は、金融事業に軸足を移す。1999年に買収した協立証券(現・エイチ・エス証券)が2004年10月にジャスダック市場に上場。澤田氏が手がけた3社目の上場会社だ。2007年に持ち株会社体制となり、澤田ホールディングスとなる。主力はモンゴルのハーン銀行だ。

抜群のアイデアでハウステンボスを再生

 2010年4月、格安旅行会社H.I.Sがテーマパーク運営、ハウステンボス(HTB)を買収し、H.I.S会長を務める澤田秀雄氏がHTB社長に就いた。HTB内のホテルヨーロッパに居住し、住民票もハウステンボスの所在地(長崎県佐世保市ハウステンボス町)に置いて再生に取り組んだ。

 HTBは、ほとんど死に体同然だった。テーマパークは、東京や大阪のようにエリアの人口が多い地域で、交通の便がいいことが立地条件だが、どちらも満たしていなかった。しかも、若い男女で沸き立つような活気はみられなかった。再建できるとは誰も思っていなかった。ところが、HTBの再建が軌道に乗り、H.I.Sの屋台骨を支える大黒柱に育った。

 澤田氏は、HTBをオランダの街並みを再現したテーマパークから若者たちが集うレジャーランドに変えた。集客を高めるために「やったら面白いんじゃないか」という仕掛けを次々とつくっていった。毎年打ち出した「花の王国」「光の王国」「音楽とショーの王国」「ゲームの王国」「健康と美の王国」の王国シリーズで集客に務めた。15年7月にはロボットが接客するホテル「変なホテル」を開業。九州初の本格的な歌劇団もつくった。

 園内には、100万本におよぶ数のチューリップが咲き誇る。春、夏、秋、冬のシーズンごとにつくり出す世界最大級1,100万のイルミネーションが武器だ。九州最大級の花火ショーは、いまではすっかり名物行事となった。

 HTBは赤字経営から抜け出せるだろうか。そう危ぶまれていたが再生した。オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾート、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに次ぐ第3極のレジャーランドとして復活した。事業は人なりだ。

(つづく)
【森村 和男】

 
(後)

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