知られざる中国の現代版シルクロード「一帯一路」戦略の真の狙い(1)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
今や、世界のパワーバランスが大きく変貌を遂げようとしている。トランプ大統領の登場により、これまでの常識が次々と覆されることになった。「世界の警察官」を豪語したアメリカが国際舞台から徐々に距離を置いて「アメリカ・ファースト」に傾き、地球温暖化も「フェークニュース」と切り捨てる有様だ。
拡大する中国の影響力
トランプ大統領は、北朝鮮との初の首脳会談を行ったものの、「非核化」の中身を詰めなかったために、具体的な進展は不透明なまま。軍事予算のみが増え続けており、アメリカの軍需産業の株価はうなぎ登りである。イランとの対決姿勢を強化するなかで、同盟国の日本にはイラン原油の輸入中止を求めるなど、自国中心の政策にG7も足並みが乱れている。
対照的に、中国による国際的な影響力の拡大が目覚ましい。その象徴的な動きが「一帯一路計画」であろう。中国には「要想富、先修路」ということわざがある。「豊かになりたければ、先ず道路を整備せよ」という意味だ。インフラ整備を通じて、自国内に限らず、世界に覇を唱えようとする「中国の夢」とも合致する。これまでのアメリカ主導の国際秩序を中国式に塗り替えようとする大胆な試みにほかならない。
その背景には1970年代までの貧しい国を「改革開放」政策の下、わずか30年でアメリカと肩を並べるまでに経済発展を成し遂げたという自信が感じられる。日本では中国の台頭を「新たな脅威」と受け止め、警戒する向きもあるが、朝鮮半島の安定化に関しても中国の関与は無視できない。いうまでもなく、日本にとって中国は今や最大の通商貿易相手国となった。ここは冷静に中国の動きと、その意図を分析し、Win-Winの関係を目指す時である。
昨年5月、北京では「歴史上、最も野心的な経済発展計画」と呼ばれる「一帯一路」構想を議論する国際サミットが開催された。「中国版マーシャルプラン」とも受け止められるのだが、それより4年前に習近平国家主席が打ち出した「現代版シルクロード経済圏構想」を進化させようとするもの。その具体化を検討、協議したのが、昨年の国際サミットであった。
この会議にはロシアのプーチン大統領始め29カ国の首脳が参加。アメリカや北朝鮮を含む130カ国から1,500人が集うという、中国にとっては「最大の外交イベント」となった。日本からは自民党の二階俊博幹事長が出席し、安倍総理の習近平主席宛の親書を持参。当時は北朝鮮が核・ミサイル開発を強行する姿勢を見せていたが、ピョンヤンに強い影響力をもつ中国との関係を重視していることをアピールした。
92年、鄧小平が打ち出した大胆な「白いネコでも黒いネコでもネズミを捕るネコはいいネコだ」というスローガンの下で進められた経済改革政策の結果、中国は瞬く間に日本を抜き、世界第2の経済大国となった。習近平の肝いりでアジア・インフラ投資銀行(AIIB)などを立ち上げ、新興国を中心にインフラ整備に力を入れ、グローバルなスケールでの「仲間づくり」に成果を上げた。その存在感は揺るぎないものになっている。本年5月には「フィリピンからだけで50万人の労働者を受け入れる」と発表したが、国内経済の拡大にともなう労働力不足を補うためでもある。
しかも、「エコロジー文明」を標榜し、その趣旨を憲法にも明記するほどだ。この分野では省エネ、再エネなど環境技術を軸に日中の協力の下で進められる可能性が高い。日本から学んだ新幹線技術を応用し、中国全土に高速鉄道網を整備した中国では、その流れをさらに進化させ、風力自家発電で時速500kmの高速移動を可能にしつつある。翼を付けた高速鉄道であり、日本の協力の下、実験が加速している。
そして、本年に入り、習近平は自ら主導し、憲法を改正することで、終身国家主席の座を維持することを可能にした。要は、西側諸国で見られる「レームダック化」から無縁な絶対的権力を手中に収めたといっても過言ではない。そうした国内の政治基盤を固めたうえで、今や「一帯一路計画」を通じて、アジアとヨーロッパを結ぶ新たな物流インフラの建設に余念がない。実現すれば、世界人口の60%、そして世界経済の45%をカバーすることになる。この計画には国連始め、100を越える政府や国際機関が協力文書にすでに署名をしている。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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