「新聞離れ」と「朝日離れ」二重の苦悩に明るい見通しはなく(中)
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(株)朝日新聞社
キャッシュリッチな財務
一方で、同社の財務内容を見てみると、驚くべきものもある。これだけの斜陽業界で業績は下降推移ながら、多額の現金を保有し借金も少ない「キャッシュリッチ」な企業だからだ。大幅赤字を計上し、希望退職者を募り、発行部数が激減しているとあれば、資金不足から多額の借金をしている印象がある。ところが18年3月期の連結決算では借入金は短期の6億5,000万円のみで、長期借入金はまったくない。実質無借金経営である。一方で現預金は約750億円を保有しており現金資産は潤沢だ。本業が不振にもかかわらず、相応の利益を出し、余裕のある資金運営ができているのは、不動産や有価証券などへの投資収益が大きいからだ。
朝日新聞社グループは、子会社49社および関連会社99社で構成されているが、事業内容は「メディア・コンテンツ事業」と「不動産事業」の2つに大別されている。セグメント別の収益を見てみると、「メディア・コンテンツ事業」の売上高は約3,530億円で営業利益は39億9,000万円である。「不動産事業」の売上高は約329億円ながら営業利益は38億2,000万円である。売上高規模は「メディア・コンテンツ事業」が「不動産事業」の10倍だが、営業利益はほぼ同額である。17年3月期の営業利益は「メディア・コンテンツ事業」が約16億円で、「不動産事業」が約55億円なので、2カ年の合計で見れば「不動産事業」のほうが収益源となっている。
バランスシートで気になるのは、退職給付債務の存在だ。18年3月期では1,323億円が計上されている。実質無借金で現預金も豊富だが、将来債務がこれほど大きいことは不安要素ではある。同社は17年7月期に退職給付制度を改定しており、17年から18年にかけて退職給付債務が355億円減少している。退職金の切り下げなのだが、同社はこの減少額を5年間にわたり定額法により費用の減額として計上するとしている。つまり355億円を60カ月で割って、その分を人件費から減らすということだ。この計算に当てはめれば、18年3月期では50億円程度が実際の人件費より少なく計上されていることになる。同期の営業利益は約78億円であるため、そのうち約50億円が退職給付債務の削減効果だとすれば、実際の営業利益は28億円程度となる。本業ではほとんど利益が出ていないということだ。
業界全体の不振に加え、同社は発行部数の減少や売上高の減少、希望退職者の募集などマイナス要因もあり、危機的な状況であるかのように語られることも多い。ここには「反・朝日」の人々の怨嗟や願望も含まれているのかもしれない。だが実態は、豊富な現金をもち、不動産と有価証券で利益を確保し、さらに有価証券は約1,400億円、不動産は2,600億円超(17年段階)の含み益もあるという。退職給付債務の減少も、もともと退職金が高いところを切り下げただけで、一般的な企業から見れば手厚い待遇だ。給与も以前ほどの水準ではないが、それでも高水準だ。アンチ朝日にはおもしろくないだろうが、朝日新聞社グループの今までの蓄財がいかに大きかったかがわかるだろう。キャシュフローによる現金および現金同等物の期末残高の推移を見ても、700億円程度での横ばいを維持しており、キャッシュはあまり減っていない。従業員数が減少傾向にあることと合わせて考えれば、コストカットをしながら蓄えた資産を守り抜いている状況が浮かび上がってくる。
(つづく)
【緒方 克美】<COMPANY INFORMATION>
代 表:渡辺 雅隆
所在地:東京都中央区築地5-3-2
設 立:1879年1月
資本金:6億5,000万円
売上高:(18/3連結)3,894億8,900万円法人名
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