「南側大統領」、北の聖地・白頭山に登る 忍び寄る経済危機を忘れ空騒ぎ(前)
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韓国の文在寅大統領を今後は「南側の大統領」と呼んだほうが良いかもしれない。彼自身が自らをそう呼称したからだ。文氏は19日、平壌の総合スポーツ競技場「メーデースタジアム」で、北朝鮮のマスゲームを観覧した後、15万人の平壌市民を前に演説した。この席で彼は「『南側の大統領』として金正恩国務委員長の紹介であいさつすることになり、その感激を言葉で表現することができない」と述べたのだ。「大韓民国の大統領」ではなく「南側の大統領」と述べたのである。
韓国企業人の不満
筆者は1985年から、ソウルで新聞社特派員として、報道にあたってきた。89年から5年間はソウル特派員として常駐した。2005年から2年間からはソウルの私立大学の客員教授だった。
その経験からすると、「大韓民国の絶頂期」はワールドカップサッカーの日韓共同開催で第4位になった02年だったのではないかと思ってきた。しかし、まさか韓国大統領が自らを「南側の大統領」と呼ぶ時代になるとは予想しなかった。すんなりと「大韓民国大統領」と述べても支障はなかったと思うが、そうもいかない「北への遠慮」があったのだろうと思うしかない。
文氏は演説で「平壌の驚くべき発展を見た」「皆さまの指導者、金正恩委員長に惜しみない賛辞の拍手を送る」とも述べた。社交辞令も行き過ぎると、ただのゴマすりである。「難しい時代にも民族の自尊心を守って、ついに自ら立ち上がろうとする不屈の勇気を見た」とも述べた。金日成時代に日本の左翼人士が平壌で金日成に会い、述べていた「友好的な発言」を思い出して、鳥肌が立つような思いであった。
「韓国大企業は『しもべ』で、北朝鮮は『あるじ』なのか」
18日の韓国大手紙「朝鮮日報」に載ったコラムのタイトルだ。韓国企業人の不満を代弁したものである。今年2月から韓国企業サムスンは11回にわたる家宅捜索を受けた。さらに現代自動車やLG、SK、ロッテなど30大企業のほとんどが家宅捜索を受けた。「水かけ姫」騒動があった韓進グループへの家宅捜索は18回にのぼる。一方、北朝鮮に対するサービスぶりは異常だ。日本など周辺国が北朝鮮の核武装に抗議して、経済制裁を強めたにもかかわらず、南北関係の改善を優先させる文政権の「自主宣言」によってなし崩しが図られようとしている。北朝鮮は韓国海軍哨戒艦「天安」爆破沈没事件(2010年)や金剛山韓国人観光客射殺事件(08年)に対する謝罪を行うこともなく、文氏もこれを要求しなかった。
(つづく)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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