2024年12月24日( 火 )

欧州の一流ワイナリーと並ぶ蔵目指し 若き蔵人たちと厳しくも楽しく酒造り(後)

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(株)喜多屋

酒は人間の官能の世界の賜物、AIが発達しても人重視を貫く

 ところで、蔵人たちが一人前に育つまでにはどれくらいの年数が必要なのだろうか。蔵の最低限の仕事である補助作業ができるまでに1年、ある程度責任をもって任せられるようになるまでには少なくとも3年以上かかるという。

 酒造りはその昔、「見て覚える」といった徒弟制度的なやり方で継承されてきたが、喜多屋は科学的根拠に基づいて酒を造っている。蔵人を教育する場合も、「なぜ」「どうして」を考えさせ、その工程がなぜ必要なのか、その作業がどうして求められるのかを常に理論立てて説明し、教え込んでいく。こうして情報を蔵人全員で共有していき、最終的には本人の酒造りのセンスに委ねることで蔵人は仕事にのめり込んでいく。

 そんな過程を経て、新人は初めて酒造りを面白く感じられるようになり、目が輝いてくるのだそうだ。逆に、3年で新人の目を輝かすことができないと「会社側の負けでしょう」と木下社長はいう。「相性もあると思いますが、3年以内に辞めていく人がいるなら、蔵側に問題があると私は思っています。うちの蔵では3年を越えて続いている人はしっかり定着しますね。蔵人教育のポイントはこの3年間のサポート体制にあると考えていて、今後はその充実を図っていくつもりです」。

 とはいえ、日本では人口減少がますます進み、働き手不足は深刻な問題になりつつある。それにともない、多くの仕事がAIに取って代わられる可能性もあるが、この点については「酒造りは人の官能の世界の賜物。いくらAIが発達してもロボットが造った酒に人が魅力を感じるとは思えません。AIに資金を投ずるより、蔵人にお金をかけて優秀な人材を育てた方が地域貢献につながります」といい、人重視をどこまでも貫いていく考えだ。

 さて、増収増益が続き、世界からも注目される蔵になった喜多屋だが、この先、どこへ向かっていくのだろう。これについて木下社長は「ヨーロッパの伝統ある一流ワイナリーと並ぶ蔵に育てる」と断言する。ただ、時間はかかるだろうというが、100年先への社長の思いと、それを目指して蔵人たちがやるべきだと考えていることが全員でぴたりと一致しており、まったくブレがないと木下社長は分析している。

 酒は嗜好品であるがゆえにその時のブームに左右されがちだが、それに動じないブランドに育った喜多屋。100年後、その思いは実現していることだろう。

(了)

<COMPANY INFORMATION>
代 表:木下 宏太郎
所在地:福岡県八女市本町374
設 立:1951年1月
資本金:2,000万円
TEL:0943-23-2154
URL:http://www.kitaya.co.jp

<プロフィール>
木下 宏太郎(きのした・こうたろう)

 1962年、福岡県生まれ。東京大学農学部卒業後、宝酒造に入社し営業と製造を担当。92年、(株)喜多屋に入社。99年、代表取締役社長に就任した。小さいころから祖父に連れられて蔵に出入り、祖父や父の背中を見て育つ。二女の父。趣味は写真とゴルフ。

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