【入管法改正案審議】政府案は拙速だが、枝野氏も報道もおざなりだ
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入管法改正案が衆院を通過し、参院で審議中だ。人手不足に悲鳴をあげる業界に押されて上程された「泥縄」の法案で、外国人労働者の本格受け入れに道を開くものだ。
憲法9条改正よりも、日本社会を変貌させる重要法案だ。野党「維新」「国民」は対案を出したが、「立憲」「共産」は政府案批判の1点張りだ。メディアの扱いも通り一遍である。「国民」は29日、(1)制度設計の再検討(2)受け入れ外国人数の業種、地域別上限(3)技能実習生制度の抜本的見直しを骨子とする対案を出した。与党側が協議に賛同したが、立憲民主党は「説明を受けていない」「(対案は)具体的でない」として、一時反対した。
外国人労働者受け入れ問題は、理念闘争ではないのだから、対案を出してより良い方策を模索するのが良識であり、国会の義務である。「ポスト安倍」を自称する枝野氏も、この体たらくでは国民から見放されてしまうだろう。
「維新」による衆院修正(2年後の見直し)や議長斡旋(法務省が来年3月国会に報告する)は現実的に有益だった。岩波書店の月刊誌『世界』12月号の特集タイトルは「移民社会への覚悟」である。リベラル好きの有権者も、「立憲」の姿勢には「覚悟はないのか」と疑問を感じるに違いない。実質的な外国人労働者拡大法案が衆院を通過した翌朝の28日午前8時、近所のコンビニに行って、朝刊6紙を買ってきた。朝日、毎日、読売、日経、産経、東京である。さすがに、この時間になるとベトナム人店員ではなく、日本人店員だった。
全紙を通読した。読売、産経は小見出しを「外国人材」としていた。政府説明の丸写しだ。読売の本文には「外国人労働者」と書いており「外国人材」の文字はない。羊頭狗肉とはこのことだ。朝日、毎日、東京は「審議17時間」の紋切り報道だ。審議の中身を問う報道展開はない。日経に至っては「クルマ課税」が一面トップであり、入管法は2番手扱いだった。新聞社の報道姿勢がおざなりなのは、社説の扱いでもわかる。
社説はどこも同じ、定型通りの2本建てだ。安保法制の時のように1本建てでないのは、日本社会の醜悪な国際化(アジア人の底辺労働者化)の実態を抑えていないからだ。相変わらずの「多文化共生論」をベースにした社会面も、マンネリである。
どうして、こうも取材・報道が浅薄なのかという疑念が頭をもたげた。すると、新聞販売店で外国人労働者が増えているせいではないかと思いついた。
調べてみると、案の上だ。すでに著作でも取り上げられている事柄であった。『ルポ ニッポン絶望工場』(出井康博著、講談社)に朝日新聞販売店のケースが紹介してあった。2年前の取材であり曖昧な部分があるが、販売店に勤務する「外国人奨学生」たちは、法規制の「週28時間以内」の労働で収まっているのだろうか。
戦前の台湾人小説家による『新聞配達夫』(1932年)という日本語の作品がある。東京の新聞販売店で搾取された苦労話を描いている。そのような事態が起きているのか、今後、起きることはないのか。メディアのあり方も、外国人労働者問題で、鼎の軽重が問われる時代になってきた。「風俗嬢と偽装留学生がLCCに乗ってやって来る!?」
SNSでこんな見出しの記事を書いたら、多くの反応があった。衆院通過のニュースを見ながら「舞姫も不逞鮮人も連絡船に乗って」という一節を思い出したのである。『関釜連絡船・海峡を渡った朝鮮人』(金賛汀著、朝日選書)に、その記述がある。韓国併合(1910年)以後、朝鮮人の日本渡航は厳しく制限されていたが、1922年になって「自由渡航制」になり、出稼ぎの渡日朝鮮人が急増した。
1921年の在日朝鮮人人口は約3万5,000人だった。ところが1922年には約6万人に急増し、1924年には約12万人に膨れ上がった。1944年には戦時中の動員もあり、約194万人に上ったのは、周知の通りである。
今回の入管法改正は、戦前の過ちを再現する恐れがある。
昔も今も変わらないのは、外国人労働者の実態に関する無知と無関心だ。与野党の対応も、メディアの扱いもおざなりなのである。国際通貨基金(IMF)が28日に発表した年次報告書によると、日本経済は高齢化による人口減少で「実質GDPは今後40年間で25%以上落ち込む恐れがある」と予測している。
IMFによると、日本の労働人口に占める外国人の割合は2%程度であり、世界でも最低水準である。IMFは「女性や高齢者、外国人労働者のさらなる活用は、人口減を一部補う」と提言し、賃上げを図る所得政策の重要性も強調した。
これらは「常識中の常識」というしかないが、適切なグランドデザインを描けないのが、日本の政府与党、野党、メディアの現状である。<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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