【書評】『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』
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NetIB―NEWSで「大さんのシニアリポート」を連載中の大山眞人さんが『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)を出版された。著者が運営する高齢者のコミュニティサロン「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)で起きた「棄老事件」を中心に、「家族関係が希薄を通り越して崩壊している」ことを報告した新書である。
1章に登場する中井夫妻はともに認知症で、日常生活もおぼつかない。夫の年金はなく、妻の年金と生活保護費に頼る生活である。認知症が進み、待ったなしの状況に追い込まれているにも関わらず子どもたちがサポートしている形跡がない。「ぐるり」の常連なので見捨てるわけにもいかず、社会福祉協議会のY相談員と著者とで、夫妻の救急搬送から日常生活、介護保険受給のための医療機関への付き添い、施設への入所手続きまで関わったという。後日、長男が「子どもたちを棄てた親を看る義務はない」といった。とうの昔に親を棄てていたのだ。
「オレオレ詐欺」で大金を詐取された父親が、息子に「他人に大金を渡すとは何事か。おまえは俺の声も忘れたのか」と激しく責められ、逃げ場を失い自殺。同居している父親の孤独死にも気づかない息子。遺骨を引き取らず、火葬代、棺代、遺体運搬費などの諸費用の支払いを拒否する子どもたち。子どもを虐待する親。その親も子どものころ、親に虐待を受けていたという事実。負の連鎖が結局「棄老」というかたちの報復につながる。
著者は「棄老」の原因を戦後の大都市への一極集中化、それにともなう住宅不足の解消と数を増やすための「狭小住宅」の建設。必然的に大家族制が崩壊し、核家族化が進む。「家族」という考え方を支えていた「儒教的思想」の消滅にあると説く。一度壊れた「家族制度」の再構築は不可能で、日本会議が唱える「伝統的な家族観の固守」はありえない。
著者は「棄てられた親たち」の生き方を、柳田國男の『遠野物語』に出てくる「デンデラ野」に求める。「デンデラ野」とは、江戸時代60歳を超した村人同士が集住し、互いに助け合いながら生き残る共同体のことである。
立命館大学の桜井政成教授は、「デンデラ野こそ、今でいう『セルフヘルプグループ活動』『コーポラティブハウス』である」と明言する。昔あった「寄り合い制度」「頼母子講」「ユイマール(結)」を現代によみがえらせることだ。運営する「ぐるり」を「コーポラティブハウス」として機能させ、血縁関係のない人たちとの交流を通して「好き嫌いを抜きにして互いに干渉し合い、結果として死をも共有し合い、看取り合う意識」と、「高齢者相互扶助システム(姥捨山)」を可能にする場所として位置づけたいと提唱する。
本書は手遅れの高齢者問題の深層をえぐり出す快作である。NetIB-News編集部では、ご希望の方5名様に『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』をプレゼントします。
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