助っ人ソフトバンク!!ヤマダと旧村上ファンド、エフィッシモの攻防戦一部始終(前)
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ソフトバンク・孫正義氏の『100億円への野望・まずは20億円の詰将棋』を先達てこのNETIB誌上で報告した。いよいよ20億円の詰将棋の要になるヤマダ電機を傘下にする大戦略が、具体的に展開する段階に突入するようになった。
ヤマダ電機ピンチに陥る
6月下旬に開催される株主総会を前に、事態が大きく動いた。ヤマダ電機とソフトバンクが5月7日、資本業務提携を結んだ。ソフトバンクが227億円を投じて、ヤマダの発行済み株式の5%を取得する。ヤマダは、旧村上ファンドの流れを汲む投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントによる猛烈な買い占めに遭っている。すでにエフィッシモの持ち株比率は創業者の山田昇社長のそれを上回り、筆頭株主に躍り出た。エフィッシモに対抗するため、ヤマダはソフトバンクを“ホワイトナイト(白馬の騎士)”に招いたのだ。
孫正義社長と山田昇社長は通信革命の盟友だった
筆者がソフトバンクとヤマダの資本業務提携を知ったのは、5月7日夕方のNHKニュースだった。
「大手通信会社のソフトバンクは、家電量販店最大手のヤマダ電機の株式5%を227億円で取得することで合意した」。
この報道に、ソフトバンクの孫正義社長がヤマダの山田昇社長に救済の手を差し出したと思った。孫社長と山田社長に長年の付き合いがあることは、広く知られていたからだ。2007年頃、山田社長に孫社長が手を結んだという情報が駆けめぐったことがある。ソフトバンクが06年に英ボーダフォン日本法人(現・ソフトバンクモバイル)を買収して、携帯電話事業に参入した直後だ。
念願の携帯電話ビジネスに参入した孫社長は、「10年戦争」と呼ぶ、長期戦に突入する。まず直近のライバルのKDDIを抜き去り、次に通信業界のガリバー、NTTと直接対決し、10年後にトップに躍り出るというシナリオが「10年戦争」の内実だ。
だが、NTTドコモなどに比べて、携帯販売店は少なかった。孫社長の唱える通信革命に共鳴した山田社長が、ソフトバンクの携帯電話ビジネスに全面的に協力するというのが、その情報であった。ヤマダが日の出の勢いで家電量販店日本一へ駆け上がっていた時期だ。ソフトバンクが、米アップルのスマートフォン「アイフォーン」の取り扱いで、急成長を遂げるのは09年以降だ。それまで、携帯電話の新製品を出す際に、顧客が何を求めているかを、山田社長がアドバイスしてきた。ソフトバンクの携帯電話事業の雌伏期に助け人になったのが、ヤマダだった。
山田社長と孫社長は、通信革命の盟友関係にあった。今度は、ソフトバンクが、エフィッシモの買い占めで窮地に陥っているヤマダの助っ人に馳せ参じたのだ。
朝日新聞(5月8日付朝刊)は、〈ヤマダによると、同社創業者の山田昇社長とソフトバンクの孫正義社長は長年の付き合いがあり、2人はことし3月からの話し合いで提携をまとめた〉と報じた。「さもありなんと」納得がいった。旧村上ファンド系が筆頭株主に躍り出る
シンガポールに拠点を置く、旧村上ファンド系のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントによる株買い占めが大量報告書によって明らかになったのは、昨年10月下旬。その時点で持ち株比率は7.3%だった。以後、買い増しが続き、今年1月22日時点で議決権比率が16.63%に高まった。大量保有の変更報告書では、ヤマダの発行済み株式の13.16%を保有している。議決権の保有比率は、発行済み株式数からヤマダが保有する自社株(発行済み株式の20.8%)を除いて算出するため、数値に差異が生じる。
エフィッシモのこれまでの投下資金は422億円に上る。保有目的は「純投資」としているが、筆頭株主として株主総会での圧倒的な発言力を握った。村上ファンドは通商産業省(現・経済産業省)出身の村上世彰氏が1999年、オリックスの宮内義彦氏の支援を受けて設立したファンドで、アクティビスト(物言う株主)として話題を集めた。株を買い占めて自社株買いの株主提案をして、売り抜けるのが得意技だ。ニッポン放送やTBS、阪神電鉄の株の買い占めで一世を風靡したが、ニッポン放送の株式取得をめぐるインサイダー事件で村上氏が逮捕され、ファンドが解散した。
エフィッシモは、村上ファンドのメンバーで資金運用責任者を務めた高坂卓志氏が、2006年6月にシンガポールで設立した。村上氏が逮捕される4日前のことだ。高坂氏はペンシルバニア大学でMBA(経営学修士)を取得。捜索の手を逃れるため、村上ファンドのシンガポール移転を図った際、立ち上げスタッフに選ばれた。
ファンドの解散後、同氏のもとに同僚の今井陽一郎氏(日興アセットマネジメント出身)と佐藤久彰氏(三井物産出身)が合流、以来、エフィッシモは3人による共同経営体制が続く。エフィッシモ、デビュー戦で90億円儲ける
エフィッシモの投資手法は、かつての村上ファンドのそれを踏襲した。割安株を大量に仕込み、経営陣に圧力をかける。そして、自己株買いなどで内部留保を吐き出させ、それに乗じて買い占め株の高値売り抜けを図るというものだ。
サヤ抜きの手法は、大量取得した株を親会社に買い取らせるか、会社自身に買い取らせるかだ。一時、ファンドにとってカネの成る木になったのが、前者だ。
07年のキリンビバレッジ、アサヒ飲料が親会社に吸収され、その過程で大量投資したファンドが大もうけしたことが1つのきっかけとなった。親子上場への批判の声に乗じて畳み掛ける戦略だ。
エフィッシモのデビュー戦となるダイワボウ情報システムは、この戦略だった。同社は老舗繊維会社ダイワボウとの親子上場という企業統治のネジレを抱えていた。その問題を追及されたため、08年にダイワボウは買い占め株の買い取りを飲み、エフィッシモは90億円の儲けを手にした。現在、エフィッシモが大量に買い占めているのは日産車体(持ち株比率32.1%)やセゾン情報システム(同27.7%)、テーオーシー(同)など、約15銘柄に投資してきた。その村上ファンドの残党が次に照準を定めたのが、ヤマダ電機だ。業績低迷で株式時価総額がピーク時の3分1まで縮み、純資産額をも下回って、割安株と判断したからだ。エフィッシモはヤマダにどんな揺さぶりをかけて、高値で売り抜けるかに注目が集まった。
(つづく)
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