2024年11月22日( 金 )

HIS、ユニゾHDの敵対的買収に発展~それぞれが抱える表に出せない裏事情(前)

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 ホテル事業などを手がけるユニゾホールディングス(HD)は8月6日、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が実施中のTOB(株式公開買い付け)に対し、取締役会として反対を表明。株主に対してTOBに応募しないよう求めており、「敵対的TOB」に発展した。

株価がTOB価格を上回り、TOBは不発か

 「国内と海外のホテル事業を強化し、トップ10入りしたい。そのために、ユニゾホールディングスと提携し、協業関係を深めたい」

 7月10日、HISの澤田秀雄会長兼社長は、そう宣言し、旧日本興業銀行系の不動産会社ユニゾHDに対し、TOBを開始すると表明した。

 HISは、ユニゾHDの株式4.79%をもつ。7月11日から8月23日までTOBを実施し、発行済み株式の45%を上限に買い集める。買い付け価格は7月9日の株価に56%上乗せした1株3,100円で、総額427億円を投じる計画だ。

 ユニゾHDは7月16日に社外取締役でつくる特別委員会を設置し、TOBの是非を協議。特別委が8月5日、「TOBが企業価値向上に資するものとはいえない」などとする答申をまとめたことを受け、6日の取締役会で全会一致で反対の表明を決議した。

 ユニゾHDの発表によると、反対の理由として、同社が展開する都心型のビジネスホテルと、HISが展開するリゾートや観光型に特化したホテルとでは客層が異なり、営業面で相乗効果は生じないとした。

 株式市場では、ユニゾHD側による対抗TOBの期待から株価は急騰。ユニゾHDがTOBに反対を表明した翌7日には、年初来高値の3,720円をつけ、8月9日の終値は3,490円。TOB価格の3,100円を大きく上回る。既存株主はTOBに応募するよりも、市場で株を売った方が利益が出る。HISは引き続きTOBを実施するとしたが、TOB価格を大幅に引き上げないかぎり、予定通りの買い付けは困難だ。

 米投資ファンドのエリオット・マネジメントが、ユニゾHD株の5.51%を保有して参戦してきた。「状況に応じ、建設的な対話や助言、重要提案行為を行う可能性もある」としている。ユニゾHDに自社株買いを迫り、高値での売り抜けを狙っているとみられる。

 いずれにせよ、HISによるユニゾHDに対する敵対的TOBは失敗で終わる公算大だ。

HISは「変なホテル」などホテル事業の100軒体制が目標

 HISはなぜユニゾHDを狙ったのか。ユニゾHDは「ユニゾ」ブランドのビジネスホテルを全国に25軒運営している。さらに東京地盤の賃貸オフィスを79物件保有、売上高の8割は賃貸不動産で稼ぐ。HISが標的にしたのが、このホテル事業だ。

 澤田秀雄氏は、ハウステンボス内で成功したロボットホテル「変なホテル」の全国展開に乗り出した。これを受け、HISは自社開発やM&Aで2023年までにホテルを100軒(現在、稼働中33軒、建設中・交渉中34軒)に増やす方針を掲げる。このうち宿泊特化型の「変なホテル」は12棟を運営しているがもっと増やしていく。ホテル事業のさらなる拡大にユニゾHDをターゲットに定めた。

 ユニゾHDとしては、ホテルの格式は我々のほうが数段上。奇抜さが売りの「変なホテル」と一緒にされてたまるかという不快感がありそうだ。

 HISがユニゾHDのTOBを仕掛けると報じられると、「澤田氏がみずほに喧嘩を売った」と評判になった。というのは、ユニゾHDは、常和ホールディングスという旧日本興業銀行(現・みずほ銀行)系の不動産会社として発足した経緯から、今も役員にはトップの小崎哲資社長を筆頭に旧興銀出身者が名を連ねているためだ。

 大株主には、これまで筆頭株主だった保険代理店の共立や日鉄興和不動産、興銀リースといった旧興銀系の金融会社や事業会社が多い。ユニゾHD株の2~3割はみずほグループ系の企業が保有しているとみられている。

 HISがみずほ系のユニゾHDのM&Aに乗り出したのは、みずほ銀行とユニゾHDの関係が一枚岩でないことを見抜いていたからだ。

(つづく)
【森村 和男】

(中)

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