醜悪すぎる裁判~ある株主権確認訴訟(後)
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一代で多数の企業群を経営しバブル時代に成功の絶頂にあった1人のワンマン経営者が妻と2人の子を残してこの世を去った。晩年には多くの経営事業が破綻し、多額の債務の支払いに追われた。残された財産はゴルフ場運営会社「(株)ザ・クイーンズヒルゴルフ場」のみとなった(関連記事:曖昧な株式管理が生んだ名門ゴルフクラブの経営権争い(前))。事件はこの会社をめぐって発生した。
重大な矛盾の発覚
原告と妻は連名で被告会社に対して株主名簿の書換を請求した。しかし、被告会社に拒絶された。この後、原告は本件訴訟を提起した。
これに対して被告は妻の陳述書を提出した。その内容は、400円で株式を原告に譲渡する契約書も作成した覚えもなく、まして、自分が被告会社の全株の保有株主となったことも知らず、株券もいわれるがまま保有していた旨を陳述した。もちろん、被告会社に株主名簿の書換を原告と連名で請求した事実はないと主張した。完全かつ重大矛盾である。
残酷な結果をもたらす裁判
本件訴訟は原告に圧倒的に有利な裁判である。勝訴すれば遺産の全額を取得する。敗訴しても相続分である4分の1は確保できる。一方、被告とはなっていないが、実質的な被告である弟と母には残酷な結果となる。夫が残した財産が何の落ち度もなく、全額、原告の所有物となるからである。この結果を招いた原因は前述のごとく、顧問弁護士の過誤に起因する。
原告が勝訴した場合、とくに最悪なことは、税務当局は相続分の4分の1を超えた分は贈与による所得と認定するから、本来の相続税とは別に莫大な贈与税が課税される可能性がある。結局、被相続人が残した遺産は、裁判で弁護士に食い物にされただけでなく、余分の贈与税負担で、大きく目減りした結果を招く。すべて、弁護士が遺産相続に関与した結果に見られる「骨の髄までしゃぶられる」現象である。
本件訴訟の不幸は、真の被告である弟と母(妻)には、まったく真実が伝えられていないことである。顧問弁護士は真実を伝えることは己の過誤を伝えることになるから、絶対に真実を伝えない。その証拠が、妻の証人尋問を強く説得しなかったことである。妻は前述のように原告の主張を根本から覆す陳述書を提出した。当然原告は証人尋問によって、妻の陳述内容を弾劾する作戦を取らざるを得ない。
しかし、真実を知らされていない妻はもうこれ以上の骨肉の争いに関与したくないと思うあまり、証人となることを拒絶した。夫が残した遺産が少しでも目減りしない方法は、法定相続分を相続する以外にはなく、裁判を早期に終結させる他ない。それには、妻が長男への株式譲渡など存在しないということを証言する以外にはない。顧問弁護士は己の不正行為責任の発覚を恐れたのか、被告(実質的には弟と母)が勝訴するための唯一の訴訟戦略さえ放棄してしまった。犠牲者は相続人全員である。
第一審判決
福岡地裁は原告全面勝訴の判決をした。これは相続人全員にとって不幸な判決である。 当然被告は控訴する。控訴が棄却されれば当然これまた上告する。裁判は確実に長期化の過程に入った。それは相続財産の目減りを意味し、双方の受任弁護士を潤すことを意味する。
ただ、一審判決について控訴審がどのように判断するかは今のところ不明である。とくに株主名簿の裏付けのない発行株券はただの紙屑だから、有価証券性もなく善意取得も権利推定機能もない。もちろん、株式譲渡契約書の存在自体を妻が否定し、その内容も売買代金が400円とほぼ意味不明の代金である事実を控訴審がどのように評価するかが注目される。
年内ともいわれる控訴審判決を待って、詳細な事件の検討をする予定である。
(了)
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