2024年11月05日( 火 )

CSW勝部麗子さんと大阪府豊中市社会福祉協議会(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

大さんのシニアリポート 第83回

会場から見る大阪の町並み
会場から見る大阪の町並み

 「社会福祉協議会」とは社会福祉のことを専門に行う民間の福祉団体(社会福祉法人)のことである。法律(「社会福祉法」第10章 第2節社会福祉協議会)に位置づけられている組織だ。財源は、賛助会員や一般会員(社協の活動に賛同した人)から寄せられる「社協会費」「赤い羽根共同募金」の分配金、一般の人からの「寄付金」、介護保険サービスなど自主事業の収益金などが充てられる。

 私は勝部さんの活動に共感を覚え、運営する「サロン幸福亭ぐるり」の基本理念とし、住民支援をしている。

 ただ、「サイレント・プア」の主人公のような人がどこにでもいるわけではない。社協が民間の福祉団体のため、その住民に対するサービスの温度差は天と地ほどに違う。「全住民を対象とはしない。60歳以上のみ」「ひきこもりには対応していない」と部分的にしか対応しない社協も存在する。「サイレント・プア」の放送を快く思わない社協もあると聞く。行政(主に福祉部)と同じように、「横並びの意識」で、「ほどほどの仕事」をこなす社協もあるだろう。勝部さんのような、傑出した人物に顔を曇らせる上司や仲間、陰口をたたく関係者もいたと思う。それでも彼女はやらなければならない地域の問題から目をそらすことができなかったのだ。

 さて、勝部さんが進行役を務める分科会に話を戻す。出身母体の豊中市社協の取り組みから入る。「個の課題から地域づくりを考える」として、実際にあった事例を挙げ、具体的に解決策を紹介。

 「生活保護申請をためらう(本人のプライドなどで)ホームレス」「リストラ・生活破綻からの脱却」「ゴミ屋敷からのSOS」「ひきこもり」「高齢者虐待の疑いのある息子の就労支援(「8050問題」)」「子どもの貧困、生活困窮者支援への対応」「アルコール・薬物依存対策」「不登校」など、実際に地域で起きているさまざまな問題を掘り起こし、解決に向けての努力を怠らない。ほかに、先細りの蕗(ふき)の復活に取り組んだ北海道釧路市音別町の「音別ふき蕗団」の活動を通して就労と地域づくりを、社協、ケースワーカー、民生委員、パーソナルサポーターとの連携で成功させた事例も面白い取り組みと感じた。

 第3部の分科会「社会福祉協議会の総合事業・体制整備事業における役割は何か」では、新潟県村上市、長崎県対馬市、埼玉県三芳町、東京都板橋区の社協の取り組みを紹介。パネリストとして登壇するこの4地区は、実にユニークな取り組みを紹介してくれた。とくに板橋区の場合、「地域包括ケアシステム」の現状を報告。私が住む所沢市とは異次元の取り組みに唖然とさせられた。とにかく考え方が柔軟で3つにわかれた組織(第1層、2層、3層)の壁が見当たらない。動きが可視化され、進行の度合いが明確だ。さすがに進んでいるといわれる板橋区の社協と感嘆。所沢市との違いはどこにあるのだろうと、正直困惑する。

 面白いことがあった。参加者の大部分は各地区の社協関係者だ。質問タイム時、誰も挙手しない。私が挙手した。進行役から、「所属名をお願いします」といわれた。社協の人間と思われたのだろう。「無所属です」と答えると、会場がざわついた。所沢市で「サロン幸福亭ぐるり」という高齢者の居場所を運営しており、個人で参加したことを伝えた。帰り際、三芳町(平成の大合併時、所沢市との合併を拒否した)のパネリストから、私のことも、「ぐるり」のことも知っているといわれ、正直うれしかった。しかし、所沢市では誰も(関係部署の誰も)サミットの内容を私に聞く人はいないだろう。具体的な提言も、「ぐるり」の広報紙「ぐるりのこと」で報告するしかないという空しさは残る。

 それにしても、勝部麗子さんの存在は刺激的だ。最後に彼女の言葉で締めたい。「いちばん厳しい人を見捨てる社会は、みんなが見捨てられる社会」「道がなければ道を作ればいい」。

赤い羽根共同募金の街頭募金に立つ「サロン幸福亭ぐるり」のサポーター
赤い羽根共同募金の街頭募金に立つ「サロン幸福亭ぐるり」のサポーター

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

(前)

関連記事