アベノミクスがもたらした日本経済崩落 政治刷新による国家保障最低ライン引き上げ急務(3)
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経済学者・評論家 植草 一秀 氏
消費税増税による格差拡大
このなかで、10月に消費税増税が強行された。財務省は、消費税増税は財政健全化と社会保障制度維持を目的とするものだと説明するが、過去30年間の税収推移の真実がこの主張を完全否定する。消費税が導入された1989年度の国税収入54.9兆円と27年後の2016年度の国税収入55.5兆円はほぼ同水準だ。この27年間に変化したのは、法人税収が8.7兆円、所得税収が3.8兆円減少したことと消費税収が13.9兆円増加したことである。
つまり、消費税大増税の税収が法人税と所得税の大減税に注がれてきたことになる。財政再建にも社会保障制度拡充にも充当されてこなかったことは明らかだ。大多数の主権者国民は真実を知らない。財務省がメディアを利用して流布してきた虚偽の説明を鵜呑みにしてしまっている。
2007年の政府税制調査会報告は日本の法人負担が国際比較上、高いとはいえないと結論し、法人税減税の必要性がないことを示した。欧州では企業の社会保険料負担が重いためだ。
ところが、2012年度以降、大規模な法人税減税が繰り返された。財務省は経団連企業に恩恵を付与することにより消費税増税の応援団を確保した。経団連企業はスポンサーとしてメディアに支配力をもち、メディアによる消費税推進の情報操作が誘導された。同時に、ハゲタカ資本が法人税負担の軽減を求めた。安倍内閣はハゲタカ資本の利益増大を優先する政策運営姿勢を明瞭にしている。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や日米自由貿易協定(FTA)交渉を安倍内閣が積極推進してきたのも、この文脈で考えると整合的だ。
さらに、日本の所得税制度には重大な歪みがある。所得税においては所得増加に連れて税負担率が上昇する累進税率が採用されていることになっているが、現実には収入金額が年1億円を超えると税負担率が低下の一途をたどる。高額所得者の収入のおおもとを利子・配当・株式譲渡益が占めており、これらの所得に対する分離課税が認められているからだ。
消費税増税に際して金持ち優遇税制の是正が行われることになっていたが完全に見送られた。平成の30年間は、日本の税収を支える主役が所得が多い担税能力の高い大資本、国民から、担税能力の低い一般庶民に転換された期間だった。一億総中流は過去の遺物となり、日本は世界有数の格差国家に転じた。格差社会における消費税増大は格差拡大を助長するもので正当性は完全に消滅している。
悪魔の組み合わせ
日本でいま最も深刻な経済問題は格差拡大である。中間層が破壊されて圧倒的多数の国民が下流へと押し流されている。このなかで安倍内閣が強行推進している税制の改変は、格差拡大を後押しするものだ。
消費税は、収入がゼロでも消費金額に税率を乗じた額が税金として徴収される。国税庁が発表する民間給与実態統計調査では、1年を通じて勤務した給与所得者の21.9%が年収200万円以下である。年収200万円の給与所得者はその全額を消費に回すことが多いだろう。このとき、この給与所得者は年収の10%を税金で召し上げられてしまう。1カ月分の給料以上のお金が懲罰として徴収されてしまう。
他方、年収10億円の富裕者が年間に1億円消費するときの消費税負担は収入金額の1%にしか過ぎない。格差拡大が深刻な状況下で、格差拡大を助長する政策が推進されている。
付加価値税率が高いと指摘される欧州諸国では、食料品等の生活必需品が無税、あるいは軽減されている。同時に、国家がすべての国民に保障する最低ラインが極めて高い。日本の場合、国家が保障する最低ラインは極めて低い。日本は米国流の自助努力を軸とする国家モデルをベースとしながら、税制において広く高い負担を求める消費税中心主義を採用している。一方で、その米国では国税としての消費税をもたない。手薄い社会保障と庶民に対する高率の税負担という悪魔の組み合わせが採用されているのだ。
(つづく)
<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、スタンフォード大学フェロー、早稲田大学教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、オールジャパン平和と共生運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続している。経済金融情勢分析を継続するとともに、共生社会実現のための『ガーベラ革命』市民連帯運動、評論活動を展開。政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。関連記事
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