クリスマス陳列で差が出る「小売の技術力」
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小売では、実に多くの心理学的要素をもった技術を駆使する。一般消費者を相手に不特定多数を顧客としている以上、避けて通れないものである。「良い物を」「より安く」が基本ではあるものの、それを際立たせるための技術は必要。
たとえば、客がどの通路を通って、どこの角で曲がるか、ということを自然と店側の思惑通りになるようにあらゆる技術を駆使している。具体的な手法は省くが、通路の幅であったり、陳列什器の形、そこに並べられた商品や、生鮮の場合は香りも駆使する。
「この角で左に曲がってもらいたい」場所で、「客が意図することなく自然に曲がるように」、主として視界をコントロールするのだ。そこにはカラーも重要な要素として活用される。小売業がクリスマスカラーとして重視するのは「赤・緑・金」の3色。この3色を活用すれば自然とクリスマスらしくなる。
キリスト教に由来する配色なので、欧米では当然、お手の物。スターバックスでは店員のユニフォームは、通常白もしくは黒のトップスに緑のエプロンだが、この時期はトップスが赤に変わっている。
日本企業だと、ポスターを貼ったり、クリスマスツリーを飾ったり、壁に「Christmas」と書いてしまう始末だ。別にChristmasと書いてもいいが、関係のない所にただ雰囲気を盛り上げようとして、ディスプレイやロゴモチーフを使ったり、ゴテゴテと飾り立てても客の消費心理には影響しない。かえって興ざめすることもある。
ペンギンキャラでお馴染みのディスカウント系企業は、やはり小売は素人。入り口や売り場、エスカレーターホールまでリースで飾り付け、お手製のクリスマスロゴの看板を入り口に掲げ、クリスマス、クリスマス、とPOPで店内に連呼していた。
家電店から総合小売になった企業や、精肉店、青果店から食品スーパーになった企業など、出自はさまざまだが、陳列技術や理論の勉強をしている企業と、勢いだけできている企業とは、この辺りで差が出てくる。
秀逸はやはりイオングループだった。マックスバリュやイオンモールの各店で同じように見られた状況であるが、ここでは天神のイオンショッパーズ福岡店を取り上げる。
生鮮売り場はしっかりと、クリスマス食材やパーティー用オードブルなど、手を出しやすく、いつもよりちょっと良い、特別感や満足感を得られる食材が並び、店内にあふれる客は一種の高揚感のなかで次々と商品を手に取っていた。
グローサリーと呼ばれる、菓子・加工食品などの売り場では、クリスマスカラーに基づいた売り場がちりばめられていた。自然とクリスマス感を高めるとともに、一般商品としての販売機会も確保できる商品選定が行われている。
たとえば、菓子売り場の「エンド」陳列は、グリコのポッキー&プリッツや、ヤマザキナビスコのチップスター、ロッテのラミー&バッカスなど、赤と緑の2色パッケージで展開されている商品がごく自然に大量陳列されている。
「エンド」とは、連続したゴンドラの一番端で前後の大きな通路側に向いた場所。ここの陳列で店の雰囲気は大きく変わる。
天井からポスターを吊るしたり、クリスマスと書いたボードを貼り付けなくとも、来店客は自然にクリスマスを感じ、購買意欲を高めていく。クリスマスのパーティー需要はもちろん、もともと人気の商品を使用しているので、通常の売上も期待できる。
これらは26日以降もそのまま販売できる。24~25日に慌てて、売り場の商品を入れ替えたり、ポスターをはがしたり、売切りのための値下げをしたりする必要がなく、作業コスト面でも有利となる。
もちろん、ブーツやシャンメリーなどのクリスマス商材はあるが、そこだけに頼らずとも低コストで売り場全体を活気づかせることができる。クリスマス専用商材は入り口付近でまとめられ、売り場のアペタイザーとしての役目をはたしている。
メーカー側もこの時期になると、パッケージを変えたり、緑系の限定パッケージの物を発売したりしていたが、最近は減りつつあるうえ、メーカーや卸も若い営業マンだと時々、パッケージの意図をわかってない場合すらある。
以前は、「クリスマス前にポッキー・プリッツをドカンと発注しませんか、クリスマスブーツ売り減らした後に最適ですよ、クリスマスイメージそのままで売り場が埋められます」などと売り込んできていた。
これには別の理由もある。LEDの普及だ。
家のなかやベランダで、クリスマスツリーに、豆球や麦球などの3~5色ライトがチカチカ光る。というのがクリスマスの定番の飾りつけだったが、2000年ごろから庭やベランダで、通行人や周りの人に見えるように家を飾り立てることが流行の兆しを見せていた。
しかし1カ月でも飾れば電気代が数万円以上跳ね上がり、一部のトレンドにとどまっていたが、消費電力が激減した青色LEDが量産化されたことで、一気にブーム化する。
この青く光るクリスマス飾りとともに、「青」がクリスマスカラーに加わってきたのだ。
もともと、キリスト教に縁が浅い日本でのクリスマスカラーは、青の参入でそのままあいまいになって行った。
時を同じくして、チェーンストアの作業体系の浸透が進み、本部が指示し、店舗は指示書の通りに売り場をつくる。ということが当たり前になった結果、現場は考えることのないワーカー集団となっていった。
陳列技術や理論が継承されなくなってきたことが、小売の店頭ではっきり見て取れるようになってきたのが2010年以降。
それはバイトテロなどをはじめとする従業員の帰属意識が薄れ始めた時期や、小売飲食で働きたくないという人が増えていき、流通業界が空前の人手不足を迎え始めた時期とも一致する。
今年も流通業界で大小さまざまな波が起き、先が見渡せない状況が続く中、イオンやマックスバリュで売り場のパワーを見せつけられて、少しほっとしたクリスマスを迎えた。
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