【インタビュー/玉城絵美】「リモート」のその先へ 10体のアバターを動かす世界がすぐそこに(前)
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H2L(株) 創業者
早稲田大学大学院創造理工学研究科 准教授
玉城 絵美強力な感染力をもつ新型コロナウイルスは、人間が慣れ親しんできた「働き方」に対しても極端な転換を迫った。可能な限り人と人が交わらず、会話すら避けながら成果を生み出す働き方――不可能にも思える「無理難題」の実現に早くから取り組んできたのが、玉城絵美准教授が創業した(株)H2Lだ。同社は4月、「ポストコロナ社会を構築するベンチャー」にも選ばれ、その先見性と技術力が注目を集めている。玉城准教授が目指すのは場所や時間に縛られない生き方。リモートワーク技術が社会に実装されたそのずっと先で待っているのは、玉城准教授が10代のころ病床で夢見た「どこでもドア」の世界だ。
〈生き方を変える〉リモートワークの世界
――昨年2月に出版された著書『教養として身につけたいテクノロジー』(総合法令)には、新型コロナウイルス禍を予測したような記述があり、リモートワーク(在宅勤務/遠隔勤務)や働き方改革についても言及されています。同著では今後10年間で生活や社会が大きく変化すると述べられていますが、今回のコロナ・ショックによってその時期が早まったと思われますか。
玉城絵美氏(以下、玉城) 感染が広がったことで、私が予想していたよりもずっと早いペースで社会の変化が起きています。ただ、感染症の拡大という外的要因が引き金となった変化なので、変化をシステムとして受け入れる社会的受容性は一気に高まりましたが、社会構造はすぐには変わらないと思います。
いま、「*リモートワークで働きたいか、*オフィスで働きたいか」といったアンケートをとると、一番多い回答は「両方を組み合わせて働きたい」という意見で、およそ8割から9割がそう答えています。リモート(遠隔)での働き方が必要になったとはいえ、現実にはロボットやインターフェイス(情報の入出力装置)が足りないので、完全にリモートワークだけで会社をまわしていくことが難しいのでしょう。
ただ、リモートワークの良さはやっとわかっていただけたのだと思います。今後は経済構造を含め、社会のマクロからミクロまでがどんなインターフェイスを受け入れて新しいテクノロジーを受け入れるか、それがカギになってくると思います。
たとえばスマートフォンは世界中の人が1人1台は持っているという状況ですが、1990年にスマホのマルチタッチパネルが開発されて2008年ごろにiPhoneが爆発的に普及するまで、約20年のタイムラグがあったんです。そのことを考えると、新しい技術が「誰でも知っている」「誰でも使える」レベルまで広く普及するのには最低でも10年はかかってしまうのかな、と思います。
――時間と場所を考慮しないでいい働き方ができると、たとえば日本に住みながらアメリカの企業に勤めることもできます。玉城さんは「どこでもドア」と表現されていますが、働き方の質的・距離的転換は起きるのでしょうか。
玉城 大きく変化してくると思います。「リモートワークに対応できる企業じゃないと働きたくない」とはっきり言う人も増えてきたので、対応できる企業が適者生存というかたちで生き残るでしょうし、逆に企業側も「リモートワークに対応できない社員はいらない」となるかもしれません。オンライン営業に対応できない社員はいらない、となったら困る方も多いのでは。
一方、広い視点で社会を見ると良いこともあって、たとえば移民問題も変わってくるかもしれません。ヨーロッパは少子高齢化で働き手が少なくなったから外から呼んでこよう、っていう考え方で、アメリカも基本的には同じだけれど、社会保障があまりないので働けなくなったら自分の国に帰ってください、なんてひどい対応をしたりする。でもリモートワークが一般的になれば移民を実際に受け入れなくてもいいので、移民問題の質が変わってくるでしょう。いまでも日本企業がインドのすごいプログラマーを雇いたいってなったら、ほとんどリモートで働いてもらっていますから。
ただし、これにもちょっと問題があって……1つは社会競争が激しくなるということ。もうグローバル化どころでなく競争が加速するということなんです。社会に階層分けができて、格差社会がもっとひどいことになる。
もう1つが、すでにアメリカでも問題になっている税収問題ですね。Googleとか国境を越えて巨大な利益を上げている多国籍企業が、税金のかからない国に本社を置いて税金を納めないことが問題になっています。いまは会社単位ですが、それが個人単位で問題化してくると、所得税まで「どこで納めたいか」という選べる問題になってくるんですね。そうなれば当然、税金が少なくて福利厚生がいい国や地域に住みたいと……ふるさと納税のようなものですね(笑)。
(つづく)
<PROFILE>
玉城 絵美
H2L(株)(H2L Inc.)創業者/早稲田大学大学院創造理工学研究科 准教授/人間とコンピュータの間の情報交換を促進することによって、豊かな身体経験を共有するBody SharingとHCI研究とその普及を目指す研究者兼起業家。2011年にコンピュータからヒトに手の動作を伝達する装置「Possessed Hand」を発表。分野を超えて多くの研究者に衝撃を与え、CNNやABCで報道。米『TIME』誌が選ぶ50の発明に選出。同年には東京大学で総長賞受賞と同時に総代を務め博士号を取得。2012年にH2L,Inc.を創業、2015年にKick Starterにて世界初触感型コントローラ「Unlimited Hand」を発表し22時間で目標達成。内閣府総合科学技術・イノベーション会議で総合戦略に関する委員も務める。新たなBody Sharingの研究プロダクトである「FirstVR」は、NTTドコモ5Gとの連携を2019年に発表。Possessed Hand、Unlimited Hand、FirstVRは、基礎から応用まで多くの研究者に利用されると同時にBody Sharingサービスへと展開している。関連記事
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