2024年12月23日( 月 )

ストラテジーブレティン(256号)~日本を蘇生に導くハイテク大ブーム~米中対決のカギを握る半導体、言わば現代の石油(6)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年7月13日付の記事を紹介。


(6)米中ハイテク対決の天王山-II. 国防総省主導、米国半導体増強プロジェクト始動

アジア(韓国・台湾)に過度に依存する半導体供給体制

 米中対決が進行すると考えれば、米国も半導体の調達が最大のリスクとなる。現代の石油にも等しい半導体供給の大半が潜在的紛争地域に存在しているからである。

米国防総省を襲う現代のスプートニクショック

 米国が今や、ハイテク覇権を失うという、国防上の危機感を強く感じていることは明らかである。「いま米国では21世紀のスプートニクショックが起き防衛部門の巨大な投資を喚起している。旧ソ連が人類初の人工衛星を実現したことに米防衛部門が危機感を抱き宇宙開発を猛烈な勢いで強化した。同様に米国は今、AIや5Gにおける中国の実力に猛烈な焦燥感を抱いている。米国はまた技術投資に巨額を投じるべく動き出した」(ダイヤモンド6月27日号「半導体の地政学」)。国防総省は100億ドルを投じJEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)と呼ばれる統合的クラウドシステムの構築を目指している。その土台をなす半導体供給が危機に瀕している。現代の覇権争いにおいては、半導体がかつての石油の役割をはたしているといえる。

世界売り上げシェア45%、生産シェア12%のリスク

 米国メーカーは依然世界の半導体売上の45%を支配し世界首位である(2位韓国24%、3位欧州・日本9%、5位台湾6%、6位中国5%)。しかし生産は7割以上を台湾と韓国の受託生産企業に委ねており、米国国内生産の世界シェアは12%に過ぎない(図表18参照)。米国の半導体生産面でのアジア依存、半導体生産の東アジア集中の実態は、図表20の半導体材料・製造装置市場シェアからも明らかである。

 米中有事となれば、それがリスクに晒される。米国がもっとも大きく依存する台湾は選挙次第で、香港のように中国と一体化される可能性が出てくる。韓国も北朝鮮との武力衝突の可能性、中国に宥和する可能性など、安心はできない。TSMCがファーウェイへの供給を停止したが、サムスンがその代役を果しえる、との観測すら流れている。このリスク回避のための国内生産プランが急速に進行している。

 米国国防総省のリーダーシップの下で、米国はハイテクハードウェアとくに半導体の国内生産回帰とグローバルサプライチェーンの再構築を進めている。現在進行中の3プランを概観する。

1. Chips for America Act(6/10法案提出)

 日米半導体摩擦の下書きを描いたSIA(米国半導体協会)も支持している。予算合計230億ドル弱。100億ドル地方政府を通した工場誘致インセンティブ、120億ドルの研究開発費補助、7.5億ドルの政策サポートの信託への拠出、2024年までの40%の投資税額控除、が主な内容である。

2. America Foundries Act of 2020(6/25法案提出)

 予算合計250億ドル、内訳は米国半導体製造設備建設促進のための助成金(商務省経由)150億ドル、50億ドル国防総省への資金供与、防衛/諜報活動に特化した特殊半導体製造向け工場、研究開発施設への支援、50億ドル政府機関への研究開発費補助、となっている。

3. Economic Prosperity Network

 米国は脱中国のグローバル供給網の構想を打ち出している。EPNは民主的価値観に基づいて運営される、と説明されており、韓国、日本、インド、オーストラリアなど友好国にアプローチしている。

経済合理性が働かない世界

 このように米中対決が決定的となり、ハイテクヘゲモニーをめぐって経済合理性を超えた投資競争が米中双方で展開され始めている。これまでの自由貿易論や市場競争などの経済理論が働かない世界である。それは政策主導の異常な半導体投資ブームを引き起こすかもしれない。

 国際貿易論のモデルは、(1)重商主義(貿易重視だが産業競争力に政府が強力介入➡中国はこの極端なケース)、(2)自由貿易論(貿易重視、政府介入排除)、(3)保護貿易(幼稚段階の国や産業は貿易遮断、政府介入が正当化される)、(4)戦略的通商論(貿易重視だが、政府の産業介入も時には必要)、の4つが考えられ、主流の経済学は観念的に、(2)の自由貿易を支持してきた。しかし相手がファーウェイのようなビヒモスである以上、建前論は通らない。(4)の戦略的通商論を精緻化する必要が出てきている。

(つづく)

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