2024年12月22日( 日 )

ストラテジーブレティン(257号)~敵対関係に入った米中、その経済・投資への含意(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年7月26日付の記事を紹介。


 米国の対中姿勢が根本的に転換した。(1)中国のサラミスライス戦略(既成事実を積み上げて支配領域を拡大する)を容認できない臨界点に達したこと、(2)トランプ再選の軸に対中政策を据えたこと、の2つの理由により、トランプ政権は対中抑え込み策を矢継ぎ早に繰り出すだろう。その手段として、外交的連合の形成、在米中国領事館の閉鎖など外交的制裁とともに、限定的軍事行動(南シナ海人工島の爆撃?)も排除しきれなくなった。

 情勢は急速に緊張感が高まる方向にある。短期的には警戒を強めるべき場面であろう。アメリカのアクションに対して中国に抵抗能力がないとわかったとき、大きなボトムフィッシュの機会が訪れるだろう。それは大統領選挙前に実現するかもしれない。

 米中デカップリングは確定的。米国は時間をかけて中国排除のグローバルサプライチェーンを確立し中国経済の弱体化を目指す。企業・投資家は3年後を見据えればどちらにつくべきか、踏み絵を踏まされることになろう。 

(1) 守勢(不正に対する制裁)から攻撃(中共産党変革)にかじを切ったトランプ政権

受動から攻めへ

 米国の対中姿勢が守りから攻めへと180度転換した。これまでの対中姿勢は、中国の不正に対する是正要求であり受動的。しかし今後は新たに事実上の敵と設定した中国共産党変革が到達目標になり、軍事力行使を含めてあらゆる手段が検討される能動的なものになる。米国の対中展開は迅速化し、コストと副作用をいとわない可能性も出てくる。投資に対しては相応の警戒が必要になってきた。

 6月中旬以降のトランプ政権の転換は目覚ましい。香港国家安全維持法実施(=一国二制度の否定)までの米国の対中対姿勢はもっぱら守りであった。しかしポンペオ米国務長官は 13 日、南シナ海での中国の海洋進出に関して声明を出し「南シナ海の大半の地域にまたがる中国の海洋権益に関する主張は完全に違法だ」と批判した。これまで国境紛争には中立の立場をとり続けてきた米国政策の根底的変更である。2016年7月のオランダ・ハーグの仲裁裁判所の判決を支持する考えを示した。

中国共産党を変革対象としたトランプ政権

 これに前後してトランプ政権の高官が相次いで中国共産党敵視ともいえるスピーチを繰り返していた。「中国共産党はマルクス・レーニン主義を信奉する全体主義の政党である。中国共産党の信条と陰謀を暴くことは世界の人々の福祉のためでもある」(ロバート・オブライエン国家安全保障担当大統領補佐官、6/24フェニックススピーチ)。「中国共産党は民主国家への勢力浸透、秘密情報網の構築、大量のサイバー攻撃などの手段により、米国経済と国家安全に計り知れない被害を与えた。中国共産党による経済スパイ活動はこの10年で1300%増加、10時間ごとに中国がらみのスパイ事案が発生している」(クリストファー・レイ連邦捜査局(FBI)長官 7/7 ハドソン研究所)「中国共産党の世界征服の野望にいかに対応するかが、21世紀に向けて全米ひいては全世界が直面するもっとも重要な議題、中国に協力する企業はその手先になっている」(ウィリアム・バー司法長官 7/16 ミシガン州)

 その集大成ともいえるものが7月22日のヒューストン中国領事館閉鎖命令とそれに続く7月23日の、ニクソン元大統領出身地カリフォルニア州ヨーバ・リンダのニクソン記念図書・博物館でのポンペオ国務長官の演説である。「習氏は破綻した全体主義のイデオロギーの信奉者で共産主義に基づく覇権への野望をもっている」と決めつけ、歴代政権の中国関与政策(経済的発展を支援すれば中国の民主化を促せるとするもの)は失敗したと断じた。ニクソン大統領の歴史的訪中(1972年)によって始まった50年間の対中政策が終焉したことをニクソンゆかりの地で宣言したのである。また中国共産党の行動転換を促すため「自由主義諸国が行動するときだ。今行動しなければ、中国共産党は我々の自由を侵食し、ルールに基づく秩序を転覆させる。自由社会が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。民主主義諸国の新たな同盟を構築する時だ」、と呼び掛けた。

(つづく)

(中)

関連キーワード

関連記事