2024年11月24日( 日 )

元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書(4)インド産アルコール、ゼラチンを輸入

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏

インド産アルコールの初輸入

 ニチメン(株)大阪化学品部から「インドの砂糖キビから精製したアルコールを輸入するため、アルコール製造業者を探してほしい」という指示を受けた、ボンベイ近くで製造業者を見つけた。「神戸に向けて輸出する際は、タンカー1隻をチャーターすると値段上の競争力が生まれる」とのことであったが、大阪化学品部が注文するアルコールをすべて積み込んでも、タンカー半隻分にしかならなかった。

 解決策を考えた結果、化学品で力をもつ企業に共同輸入をもちかけ、インドから日本に向けてアルコールの初輸出が実現した。アルコールの成分が98%ならば工業用アルコールの扱いになり、関税が安くなるというので、ヒューゼルオイルを添加した98%のアルコールとして輸入した。

 このアルコールは、有名な灘の生酒の原材料だといわれていた。日本酒の原料はすべて日本の米だと思っていたが、インド産アルコールが混ざっているということに驚いた。

牛骨商いからインド産ゼラチン本格輸出へ

 フィルムの表面塗布剤や、医薬品カプセル、食用ゼラチン、菌培養用ゼラチンの原料には牛の骨髄が必要だとして、ボンベイ店から協力を要請された。

 インドのヒンドゥー教では、神さまが乗ってきた牛は「聖牛」として扱われている。牛のと殺は御法度のため、自然と死亡するのを待つほかない。沙漠などで野垂れ死にした牛骨を集めるのは、ヒンズー教徒にはできないことだった。そこで、主に回教徒または仏教徒に頼んで集めた骨をボンベイ港から積み出した。夜になると、骨のリンから火の玉が立ちのぼるということで、荷役人がうす気味悪がっていた。

 間もなく、骨のままで輸出するよりも、インドに工場を建ててゼラチンに加工して輸出する方が、付加価値がついて高い利益が得られると気づいた。そこで、ボンベイ近郊にTゼラチン、K-写真、ニチメンの3社で合弁工場を設立した。ニューデリー店でこの工場設立の許可申請を引き受け、中央政府の工業省との交渉に尽力し、ようやくボンベイ工場からの日本向けに本格的にゼラチンを輸出できるようになった。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

(3)
(5)

関連キーワード

関連記事