2024年11月24日( 日 )

元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書(5)アフガニスタンへ日本製灌漑機械を初輸出

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日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏

自動車用工具ビジネスを開拓

 スパナやボルトなどの自動車用ハンドツールは、鋳物製だ。大阪と浜松の鋳物業者が、日本では環境上の問題もあり競争力もなくなったため、鋳物工業の仕入れ先をインドに変更するため調査でインドを訪れた。数カ所の工場を視察して、インドから輸入することに決定した。

 彼らをタージ・マハルに案内した時に「ニューデリー駐在中に両親をインドに招待し、タージ・マハルを案内するのが夢だ」とミッションの団長に話すと、快く承諾してくれて鹿児島の両親のニューデリー訪問が実現した。親孝行を実現できたのは、光栄であった。

 ミッション訪印、成約記念パーティに父も参加し、息子が通訳している様子を見て喜んだ。父は信心の篤い仏教信者で、ネパール訪問にも同行した。仏陀の生誕地に近いカトマンズで仏像を購入し、帰国後は実家の仏壇に飾ってこよなく愛し、インドやネパールの思い出を語っていた。

 その父も、私がニューヨーク駐在している時に88歳で他界した。ニューヨーク赴任前に鹿児島に帰郷して別れの挨拶をした時に、「今生の別れになるかもしれない」と父が言い、別れ際に焼酎を汲み交わした。商社マンは、「親の死に目にも会えない罪な商売だ」と痛感した。

アフガニスタンへの日本製灌漑機械を初輸出

 東京プラント部から、ADB(アジア開発銀行)資金でアフガニスタンの北部クンドゥス州ガワルガン・チャルダラで灌漑プロジェクトが行われるため、灌漑用建設機械の大量買い付けが行われることになった。マニラ支店からの連絡によると、日本勢ではM社も情報を入手して動いているという。

 至急アフガニスタンのカブールに出張して、現地農業省にコンタクトした。買い付けの詳細を入手するとともに、「現地代理店を探してほしい」という指示があった。ただし現地代理店選定は、機械部出身でニチメン・パキスタンのカラチ支店長にもすでに依頼が出されており、ニューデリー支店とカラチ支店のそれぞれが推薦する代理店を、本社で比較して決定することになった。

 早速、カブールに飛んだ。カブール空港に到着した途端に、冬の気配が忍び寄る11月のわびしさを感じ、そのままニューデリーに帰りたくなるほどだった。これまで20年間の海外駐在で、空港に到着した途端に帰りたくなったのは、このカブール空港とボリビアのラパス空港のみだ。高度が富士山より高いラパスでは、飛行機のタラップをゆっくり降りなければ、心臓の鼓動が激しくなるほど空気が薄い。夜はホテルでも時々目が覚め、空気ボンベで酸素を補給するほどだった。

 かたやカブールは空港自体が貧弱で雪に埋もれ、ホテルといっても昔の日本の貧弱な田舎の校舎のような建物に、わびしいベッドが1つあるだけだった。食堂も名ばかりで、食事は少しの野菜と、スープ、羊のシシカバブだけだ。

 そんなガブールで、電話帳から代理店候補を探していると、ドイツのベンツや、日本のヤンマー(株)と東洋機械(株)の代理店と書かれた「Mir’s Service」という会社が見つかった。早速、翌日の朝一番に訪問し、シャンサブ社長に面談した。ドイツに留学していた社長は英語もうまく、意気投合し、この会社をニチメン代理店に推薦した。

 (株)小松製作所・インドは、M社のニューデリー支店が推薦したフランスのルノー代理店や、ニチメン・パキスタンのカラチ支店が推薦したアフガニスタン陸軍将官の会社を却下し、ニチメンのニューデリー支店推薦の「Mir's Service 」を代理店として起用することを決定した。シャンサブ社長が期待に応えて尽力し、アフガニスタン向けに日本製灌漑用建設機械の初の落札に成功した。「海外ビジネスでは、代理店起用がカギになる」という好事例を経験した。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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