2024年12月26日( 木 )

ポストコロナ時代の新世界秩序と東アジアの安全保障(1)

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鹿児島大学 名誉教授 木村 朗 氏

 「新型コロナウイルス危機」が起こってから、感染拡大防止のために都市封鎖や外出自粛が行われる一方で、経済活動が長期停滞するのを恐れて都市封鎖の解除や外出自粛の緩和が行われるなど、まさに混沌としている。しかし、コロナ危機の前後で私たちの社会と生活の前提が根本的に大きく変化したことや、急速なデジタル社会化が象徴しているようにこの変化が不可逆なものとなる可能性が高いことは明らかだ。
 こうしたコロナ危機後の世界の有り様を踏まえて、ポストコロナ時代における新しい世界秩序を「東アジアの安全保障」という視点から考えてみたい。

ポストコロナ時代の新しい世界秩序

鹿児島大学 名誉教授
木村 朗 氏

 コロナ危機後の世界における大きな変化としては、(1)グローバリゼーションの後退とナショナリズムの台頭、(2)世界的規模での国家の役割の拡大と監視社会化(ファシズム化、強制収容所化)の急速な進展、(3)世界的な貧富の格差と社会の分断・二極化の拡大などの特徴がある。大局的に見ると、「米国単独覇権体制」(G1)の崩壊とそれに代わる「米中二極体制」(G2)あるいは「多極体制」(米国、中国、EU、ロシア、インドなどを含むG20と国際連合)、もしくは米国の政治学者のイアン・ブレマー氏が提起している「無極体制」(Gゼロ)への移行が加速しつつあるだろう。

 コロナ危機後の世界においては、米ソ冷戦体制に代わる米中新冷戦あるいは米欧日vs中露の新冷戦の到来が自明であるかのように言われている。コロナ危機後の世界において、米国の存在感や影響力は、「世界の警察官」としての覇権放棄や、「前方展開戦略」の見直しによる米軍の縮小・撤退、米国が世界最大の感染者数・死者数となったというコロナ対策の失敗もあって、縮小・希薄化する一方で、中国の存在感や影響力は非欧米世界を中心により一層拡大している。

 米国は、中国の「一帯一路」構想や5G通信機器メーカー・ファーウェイ、ロシアのEUとの新パイプライン構想「ノルドストリーム2」を敵視して、米中貿易戦争や対ロシア経済制裁、北大西洋条約機構(NATO)拡大政策によって、中国とロシアになりふり構わず対抗しようとしている。しかし、トランプ大統領のNATO軽視や温暖化対策の「パリ協定」破棄なども原因となり、米国は同盟国との結束さえもままならぬ状況で、イタリアは中国に接近し、ドイツはロシアへのエネルギー依存を強めている。

 そうした米中新冷戦あるいは米欧日vs中露新冷戦が進むなかで存在感を高めているのが、中国に続く「21世紀の超大国」と目されているインドである。インドをめぐる米国と欧州、日本、オーストラリア対中国とロシアによる、生き残りを賭けた激しい争奪戦はかなり以前から始まっていた。

 インドは2017年6月に、中国とロシアが主導する「上海協力機構」(SCO)に正式メンバーとして加盟する一方で、07年5月から日米豪印戦略対話に加わって、米国や日本、オーストラリアとの合同軍事演習にも参加し、微妙なバランス政策を取っている。この点では、6月中旬に中国とインドの国境で起きた軍事衝突後の情勢は、45年ぶりに双方が死者を出すに至っているだけに注意が必要であろう。

(つづく)


<プロフィール>
木村 朗氏
(きむら・あきら)
 1954年生まれ。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、東アジア共同体研究所(琉球・沖縄センター)特別研究員、前九州平和教育研究協議会会長、川内原発差し止め訴訟原告団副団長。著書として、『危機の時代の平和学』(法律文化社)、共編著として、『沖縄自立と東アジア共同体』(花伝社)、『沖縄謀叛』(かもがわ出版)、『「昭和・平成」戦後日本の謀略史』(詩想社)、『誰がこの国を動かしているのか』、『株式会社化する日本』(詩想社新書)など著書多数。

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