2024年11月24日( 日 )

「新型コロナ」後の世界~健康・経済危機から国際政治の危機へ!(1)

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東京大学大学院法学政治学研究科 教授 小原雅博氏

 新型コロナウイルスはイデオロギーもルールも関係なく、国境や民族を越えて人類を襲った。そして今、コロナ危機は健康、経済から国際政治や外交、安全保障の領域にまで拡大している。
 東京大学大学院教授の小原雅博氏は近著『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(ディスカヴァー携書)で「危機はこれまでは、国家や民族意識を高めてきたが、今の私たちは監視社会でない自由で開かれた社会を築くと同時に、感染症に屈しない強靭な社会を築かなくてはいけない」と述べている。小原氏に新型コロナ後の世界について語ってもらった。

製薬市場メカニズムが機能しないワクチン開発

 ――今回の新型コロナ騒動をどう見ていますか。

 小原 今話題になっているのは、感染症である新型コロナパンデミックですが、感染症は決して想定外の問題ではありません。今回は「新型」ですが、コロナウイルスの感染症は21世紀に入ってから、2003年にSARS(※1)、12年にMERS(※2)が起きています。

小原 雅博 氏

 感染症パンデミックが発生すると大騒ぎになり、必ず「最後のカギはワクチンの開発」という文言が新聞や雑誌に躍ります。しかし、このワクチン開発に関して、価格を通じて需要と供給を均衡させる「製薬市場メカニズム」が機能しない点が懸念されています。

 ワクチンは基礎研究から接種開始までにかかる期間が10年以上におよぶことも珍しくありません。そのため、今回言われているように、1年半~3年ほどでワクチンを開発できたとしても、多くの感染者に行きわたるまでにさらに多くの時間がかかり、ワクチンが広く普及したころには、新型コロナパンデミックは終息していると予想されます。

 このように、ワクチン開発にかかる膨大なコストも時間もすべて無駄になってしまうことがわかっているため、大手はもちろんのこと、中小の製薬会社も積極的に取り組むことができません。

ワクチン開発なしでは、高確率で第2波、3波

 小原 もし新型コロナと同じ「コロナウイルス」によるSARSやMERSが起こったときに、各国政府が国際協力してワクチンを開発していたら、今回の新型コロナにもっと迅速に対応することができ、パンデミックがこのように長く続くことはなかったと考えられます。そういう意味では残念なことですが、今回の新型コロナで、感染症に対して人類が協力して根本的な対策を行ってこなかったという「つけ」が露わになりました。この機会に、国家の指導者や国民は、国際協力なくして人類の脅威である感染症との戦いに勝利できないことを認識すべきです。

 「ワクチン」の開発が重要なのは、ワクチンが開発されなければ、高い確率で第2波、3波が起こる可能性があるためです。第1次世界大戦中の1918~19年にかけて大流行し、世界の人口の約3分の1が感染して1,700万~1億人が死亡したとされる「インフルエンザ(スペインかぜ)」では、第2波の致死率は第1波の10倍でした。

 「インフルエンザ(スペインかぜ)」が示した感染拡大の3つの波は、他の主要なインフルエンザ大流行においても多くの場合、同じように観察されています。そして、これらの感染症の大流行において共通しているパターンは、第1波は比較的穏やかであるものの、その後に現れる第2の波はより破壊的であるということです。

(つづく)

【金木 亮憲】

※注1:SARS
 重症急性呼吸器症候群。中国南部の広東省を起源として、重症な非定型性肺炎が世界的規模で集団発生。32の地域・国で8,000人を超える症例が報告された。^

※注2:MERS
 中東呼吸器症候群。12年9月にサウジアラビアで初めて患者が報告されて以降、サウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦、カタールを含む中東諸国や、フランス、ドイツ、イタリア、英国などの欧州やチュニジアで患者が断続的に発生した。^


<プロフィール>
小原雅博
(こはら・まさひろ)
 1980年東京大学文学部卒業、1980年外務省入省。1983年カリフォルニア大学バークレー校修士号取得(アジア学)、2005年立命館大学にて博士号取得(国際関係学:論文博士)。アジア大洋州局参事官や同局審議官、在シドニー総領事、在上海総領事を歴任し、2015年より現職。立命館アジア太平洋大学客員教授、復旦大学(中国・上海)客員教授も務める。
 著書に『日本の国益』(講談社)、『東アジア共同体―強大化する中国と日本の戦略』、『国益と外交』(以上、日本経済新聞社)、『「境界国家」論―日本は国家存亡の危機を乗り越えられるか?』(時事通信社)、『チャイナ・ジレンマ』、『コロナの衝撃―感染爆発で世界はどうなる?』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本走向何方』(中信出版社)、『日本的選択』(上海人民出版社)ほか多数。
 10MTVオピニオンにて「大人のための教養講座」を配信中。

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