【仙台高裁で国の責任認定】伝承館・語り部の思いを踏みにじる、菅政権の原発政策
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菅首相は安倍政権の原発推進政策を継承
「アベ政治」の継承を訴えて総裁選で圧勝した菅義偉首相(政権)が、“原子力ムラ内閣”“経産内閣”とも呼ばれた安倍政権の原発推進政策を続けようとしている。「菅首相 初の地方視察」として紹介された9月26日の福島訪問では、多くの県民が望む「原発ゼロ実現」への意気込みが出るのか注目されたが、結局、今後の原発政策については一言も語らなかった。
都合の悪いことは説明しない姿勢を質すため、私は2度、菅首相に声掛け質問を敢行した。1度目は、県立ふたば未来学園の学生との交流を終えた直後のこと。原発事故による風評被害対策のプレゼンを聞いたにもかかわらず、講評では原発問題について何も触れなかったのだ。そこで交流会場から出てきた菅首相を直撃した。
――総理、原発ゼロへの意気込みを一言。原発推進は安倍政権と同じですか。福島で原発について一言、言ってください。
菅首相 (こちらに視線を一瞬向けたが、無言のまま立ち去る)
2度目は、同学園の校庭で学生たちから歓声を受けた後の囲み取材。5分間で3問の質疑応答で打ち切られたので、再び「原発推進は続けるのですか。安倍政権と同じですか」と問い掛けをしたが、ここでも一言も発することはなかった。
驚いたことは他にもある。9月23日の朝日新聞が、「語れない『語り部』 特定団体の批判含めぬよう求める手引『被害者の私たち東電や国批判できぬのか』」と銘打って問題視した「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉町)を視察したのに、次のように称賛して事足りていたのだ。
「(複合災害を経験した)福島の歩みを大いに発信する施設。多くの皆さんを感動させ、学習させるものがある」
くしくも福島訪問から4日後の9月30日、福島第一原発事故における国の責任を認めた仙台高裁判決が出た。福島県や隣県に住んでいた約3,600人が国と東電に損害賠償などを求めた集団訴訟で、高裁が国の責任を初めて認定したのだ。「国の責任を認めた」仙台高裁判決と、国の責任を語らせない「伝承館」を絶賛する菅首相は、原発に対する姿勢が矛盾しているとしか言いようがない。
仙台高裁で「福島第一原発事故における国の責任を認める」判決
菅首相と一緒に伝承館を視察した平沢勝栄復興大臣にも、仙台高裁判決と伝承館について10月6日の会見で聞いてみたが、具体的な回答はなかった。
――仙台高裁の判決、国の責任を認めたことに関連して、(事務方がペーパーを差し入れる)大臣ご自身の考えは国の責任があるのか否か、どう考えているのかが1点。菅総理と一緒に視察された伝承館ですが、朝日新聞が「語り部が『語れない』」と。(ここでも事務方がペーパーを差し入れる)これは福島の県民に寄り添うものと逆行すると思うが、大臣自身、どうお感じになったのか。
平沢大臣 まず判決の件ですが、判決は個別の案件ですからコメントは差し控えたいと思いますが、いずれにしましても復興庁としては、被災者の方に寄り添って、被災者の方のお手伝いをするべく全力でこれからも取り組んでいく姿勢にはまったく変わりはありません。
――大臣のお考えを聞きたい。(国の)責任があるのかどうかについて。
平沢大臣 ですから個別の案件については私自身の考えを述べるのは差し控えさせていただきたいと思います。いずれにしましても私は、福島の方にお会いして、いろいろなご意見をうかがって、皆さん、いろいろな思いがあって、言いたいことは山々なのですが、福島の方は謙虚で誠実で懐が深いというか、なかなかストレートに表に出さないところがありますから、私たちはその心を汲み取って、福島の方の気持ちに寄り添うかたちで、できる限り、お手伝いをする必要があることは本局職員をはじめとした訓示でも申し上げたところです。
支離滅裂とはこのことだ。仙台高裁判決を勝ち取った「生業を返せ、地域を返せ!」が合言葉の集団訴訟の原告団には、「同じような苦しみを他県の人たちに味わってもらいたくない」「日本全体で原発ゼロを実現してほしい」という思いの福島県民も加わっていた。平沢大臣が「謙虚で誠実で懐が深い」という福島県民に寄り添うというのならば、声を挙げた福島県民の思いが凝縮された判決内容に目を通して、大臣自身の言葉で原発について語らないと首尾一貫しないのだ。
さらに、「伝承館」の問題については、平沢大臣は検証をしたうえで、より良いものにすべきと答えた。
平沢大臣 それから伝承館の語り部の問題は、事実関係はわかりませんが、私は、語り部の方々がご自分で見たり聞いたり、実際に体験したことをそのままお話しされることは極めて大事と考えていますので、いずれにしましても伝承館、これからいろいろな方のご意見を聞いて検証していくと思います。そして、さらにいいものにしていくだろうと思います。スタート時点のものが10年も30年も続くということではないと思うので、ともかく私は伝承館が歴史に耐えられるすばらしい伝承館として、後世に末代まで続いていくように期待したいと思います。
原発マネー依存財政となってしまった反省を誰もしていない――語り部・大谷慶一氏
しかし現時点では、「歴史に耐えられる」とは程遠いレベルにある。伝承館の語り部の1人で、「いわき震災伝承みらい館」を本拠地とする大谷慶一氏(いわき市在住)は次のように話す。
「私たち福島県民はここに住んでいますから、『原発事故は人災』『東電に責任はある』と思っていますし、口に出すこともあります。私は語り部の講演で地方出張をするのですが、『原発反対』『原発廃炉』とはあまり聞かない。原発事故のことが風化してしまって、(他県の)市民は原発を認めているような感じさえ受けています。だからこそ、われわれ福島県民は、原発事故の被害を受けた住民として、もっと発信をしないといけない。発信不足です」
朝日新聞の記事では、伝承館の語り部活動マニュアルに「『特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷など』を『口演内容に含めないようにお願いします』」と書いてあることを紹介しており、大谷氏が持っていたマニュアルにもこの文言がたしかに記載されていた。
伝承館を管理・運営しているのは、(公財)「福島イノベーション・コースト構想推進機構」。国の団体であるため、原発推進政策を続けた安倍政権に忖度したような展示内容となっていた。伝承館入口で見る5分間シアターでは福島県出身の俳優・西田敏行氏のナレーションが流れるが、東京に電気を送って経済成長に寄与したという原発のプラス面を強調していた。
伝承館には「原発誘致で(双葉郡の)人口が増えた」というグラフが展示されていたが、「誘致をした結果、原発事故が起きて、人口が減少に転じて大変だ」という反省材料に関するデータが抜け落ちていた。このことを指摘すると、大谷氏は福島県民側にも責任があったと続けた。
「なんで福島県に原発が10基(福島第一原発6基、福島第二原発4基)もつくられてしまったのか。最初の1基は仕方がない。地元を盛り上げるために誘致した。あとの9基はみんな(原発立地自治体の)町の予算がなくなってしまうのです。原発をつくると、何年かは支援金(原発マネー)が入ってくるわけです。何年かすぎると、ゼロになるわけでしょう。ゼロになると『また新しい原発をつくって欲しい』と町が言い出したわけです。その結果が10基なのです。原発マネー依存財政となってしまった反省を誰もしていない。原発立地自治体が今やっていることを見れば、わかるでしょう。今も『伝承館をつくりましょう』と言っている。双葉町につくったのに、大熊町や富岡町も浪江町も同じ伝承館をつくるのですよ。全部、復興資金でつくってもらえるのです。そんなことばかりやっているのです。何かオーダー(陳情)をすれば、原発事故被災地区はつくってもらえるのです」
「かつて原発マネーに依存したことを反省していない。『電力会社や国からの巨額の外部マネーに依存するのは当たり前』『俺たちは原発事故の被害者なのだから』という理屈です。そんなことを言っていても仕方がない。私は9月20日のオープン前の時からずっと違和感があった。この違和感は何なのか。展示物はあるが、そこに(被災者の)感情がないのです。情念がないのです(略)福島の悲劇を二度と繰り返さないために全国的に原発ゼロを進めることを発信するのが伝承館のはずだと思うのです。『原発廃炉(原発ゼロ)』を声高に叫んでいるのは福島県民だけです。静岡県の浜岡原発周辺で講演をした時も、そう感じました。全然、福島原発事故からの学習をしていません」
こうした声を受けて、菅首相や平沢大臣は伝承館を福島県民の思いに寄り添ったものに改善していくのか。安倍政権の原発推進政策の落とし子のような伝承館にメスを入れなければ、菅政権でのエネルギー政策の転換など期待できない。
【ジャーナリスト/横田 一】
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