2024年11月22日( 金 )

【凡学一生の優しい法律学】横行する同意詐取~前田建設廃材不法投棄事件(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

同意詐取の代表的事例

 同意詐欺の代表例としては、最高裁判所裁判官の国民審査が挙げられる。審査対象の裁判官の人となりをまったく知らない全国民に「○×の投票」をさせ、その結果を信任の有無であると判断することこそ、同意詐取と本質が同じであることを国民は理解しなければならない。つまり、日本の最高裁判所裁判官には本当の意味での国民の賛同は存在しない。司法権は国民主権による分立権力という主張は、国民の無知に乗じた暴論ではないか。

 同意詐取は、日本社会のあらゆる局面で散見される。この理由は、国民が基本的に法的知性のための公教育を受けておらず、相手を信じざるをえない社会生活を強いられてきたためである。「オレオレ詐欺」が横行しているのは、高齢者の痴呆が原因ではなく、基本的に日本の民主主義教育の未熟さにより、国民が社会を疑う目をもたずに生きて来ざるをえなかったことが原因である。法的知性を養う公教育を受けない限り、オレオレ詐欺、同意詐取ともに日本社会から消滅することはない。

 本稿では、現行のADRが同意詐取の一例であるとの結論を示したが、これはADRの運用上の結果として起こっていることである。制度として見て、事案に即した専門家が介在するADRは、法律以外は何の専門家でもない裁判官がすべての法律外事項を判断する現行の裁判制度に比べて、はるかに理想型に近い。現行の裁判制度はとうの昔に時代遅れとなっており、弁護士についても同じことである。

 実際のADRでは、事案に相応しい専門家が代理人弁護人に任命される必要がある。現行ADRの未熟な部分があり、この仕組みはまだ整っていない。そうすると弁護士の「うまみ」はうすくなるが、社会正義の実現に貢献する職業に「うまみ」があること自体、あってはならないとの職業意識を、どのくらい多くの弁護士がもっているだろうか。

追補

 産経新聞では、「前田建設は『中紛審で協議している案件のため取材には応じられない』としている。」と報道されている。都合の悪い事件についてのコメントを求められた者の常套句である。

 「協議中であるため取材には応じられない」という言葉はあまりにも耳慣れた常套句であるため、国民は違和感をもたないが、裁判で主張したことは当然公開されるため、裁判事件の場合には単なる口実に過ぎない。

 しかし非公開のADRで主張したことは表に出ないため、秘密化、隠蔽化は現実味を帯びる。ADRを利用する本当の理由は、どのような反論主張であっても公開されないという安心感かもしれない。このことは一方で、「密室で談合ができる」ことを自白しているようなもので、公正な裁判機関にあってはならないことである。

 国民は裁判手続を回避してADRを勧める弁護士に対して、性善説的な解釈をしてはいけない。合意の成立の有無に関わらず、その過程が暗黒のなかにある結論は正当性が疑われるという、手続の非公開には重大な問題が含まれている。

 審判手続きの専門性や迅速性が保障されることと、手続の非公開とはまったく関係がなく、ADRが議論を非公開にすることには重大な問題があることを指摘しておきたい。

(了)

(中)

関連キーワード

関連記事