朝鮮戦争―日本の民主主義の変節、自由主義の崩壊の原点!(6)
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第38回「世界友愛フォーラム」が9月24日、「鳩山会館」(東京都文京区)において開催された。(一財)東アジア共同体研究所理事・所長(元外務省国際情報局長)の孫崎享氏(『朝鮮戦争の正体』著者)が「朝鮮戦争―なぜ起こったか、日本政治への影響―」と題して講演を行った。
70年前の朝鮮戦争の正体を今になって振り返ってみると、私たちが直面している「憲法の形骸化」「民主主義の変節」「自由主義の崩壊」「軍事大国に邁進するアメリカ」「アメリカに隷属する日本」という複雑に絡み合った糸がまるで嘘のように解きほぐされる。本論:論点6.「朝鮮戦争は今もなぜ終わらないのか」
世界で最強になった軍の維持を選択
1945年9月に、朝鮮半島は、朝鮮民族の意思よりはるかに強い勢力により分断されました。そして、冷戦が終わった後も、何か強い力が南北の動きを妨げています。
冷戦後、米国には2つの選択肢がありました。それは朝鮮半島の将来と密接に関連します。1つは「ソ連への脅威が軽減したとして、重点を経済に移すこと」、もう1つは「世界で最強になった軍を維持すること」で、そのいずれの道の選択も可能でした。
「ロバート・マクナマラ元国防長官は上院予算委員会で、ソ連の脅威が減じたいま、3,000億ドルの国防予算は半分に減らすことができ、この資金は経済の再構築に回せると証言した」
(89年12月13日付のニューヨークタイムズ)しかし、米国は結局、「世界で最強になった軍の維持」という選択をしました。その結果、米国の北朝鮮政策は本質的に大きく変化します。45年に日本が敗北してからソ連が崩壊するまでは「対北朝鮮政策は、ソ連・中国との関係でどうすべきか」でしたが、ソ連崩壊後は「北朝鮮がイラン、イラクと並ぶ最大の脅威」と位置付けました。すなわち、イラン・イラク・北朝鮮等の政情不安定な国が大量破壊兵器を所有すると国際政治上の脅威になるため、これら諸国が大量破壊兵器を所有するのを防ぎ、こ民主化を促進するため、「必要に応じて軍事介入しなければならない」というわけです。
戦争に利益を見出す層が米国を動かす
しかし、これらの国々は、米国の軍事力と比べると圧倒的に弱く、彼らから米国に攻撃を仕掛けることはありません。そこで、緊張を継続するために、米国が挑発し時に軍事力を行使する図式が生まれます。この図式は戦後の国際秩序の在り様をすっかり変えました。つまり、冷戦後の米国の戦略は、イラン、イラク、北朝鮮と敵対関係に置くことが基本なのです。
北朝鮮の核兵器問題の本質は、「北朝鮮が国際関係と関わりなく、核兵器開発を行っているため、国際社会は北朝鮮に対抗措置を取らざるを得ない」ではなく、「米国は自国の莫大な軍事予算の維持のために北朝鮮との敵対関係が必要ため、北朝鮮を核兵器開発の方向に追い込み、敵対関係を維持する」ことです。
第二次世界大戦の英雄でもあった、ドワイト・ D・アイゼンハワー大統領(※)は、61年の退任演説のなかで「軍産複合体」という言葉を用いて、企業と軍隊の融合が「民主主義への脅威」になっていることをいさめています。すなわち、軍産複合体が米国全体の利益に反して戦争に突入する危険を警告しているのです。
軍産複合体とは、戦争から経済的利益を得る政治的・経済的集団、とくに戦争歓迎する産業に関わる集団のことです。しかし、アイゼンハワー大統領の警告後も、米国の国防予算は肥大化し、その影響力はますます大きくなっています。戦争を行うことに利益を見出す人々が、米国を動かすようになっているのです。
(つづく)
【金木 亮憲】
※:第34代米国大統領(在職1953年~61年)。42年以降ヨーロッパ派遣米軍司令官、連合国軍最高司令官などを歴任、45年陸軍参謀総長。48年一時退役してコロンビア大学総長。50年~52年NATO軍最高司令官。52年共和党から大統領に当選。外交的には反共強硬政策を基本としながらも、ソ連のフルシチョフとの首脳外交は東西の雪どけムードをも生んだ。 ^
<INFORMATION>
(一財) 東アジア共同体研究所
東アジア共同体研究所は、鳩山友紀夫内閣時代に国家目標の柱の1つに掲げられた「東アジア共同体の創造」を目的とするシンクタンク。2013年3月15日に発足。理事長・鳩山友紀夫(第93代内閣総理大臣)の下、理事・所長の孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、理事の橋本大二郎氏(元高知県知事)、理事の高野孟氏(ジャーナリスト)、理事の茂木健一郎氏(脳科学者)を中心に、プロジェクト形式で研究活動を行っている。
世界友愛フォーラム
アジア共同体研究所の事業の一環として、東アジアのみならず、広く世界の平和と共生を「友愛」の理念に基づいて推進していくための自由な議論や交流の場。これまでに、「東アジア共同体構想」や「東アジアの安全保障」「東アジアと沖縄」をテーマに勉強会やシンポジウムを開催、参加者は講師との意見交換など活発に議論を交わし、「世界の平和と共生」への理解を深めている。関連記事
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