朝鮮戦争―日本の民主主義の変節、自由主義の崩壊の原点!(7)
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第38回「世界友愛フォーラム」が9月24日、「鳩山会館」(東京都文京区)において開催された。(一財)東アジア共同体研究所理事・所長(元外務省国際情報局長)の孫崎享氏(『朝鮮戦争の正体』著者)が「朝鮮戦争―なぜ起こったか、日本政治への影響―」と題して講演を行った。
70年前の朝鮮戦争の正体を今になって振り返ってみると、私たちが直面している「憲法の形骸化」「民主主義の変節」「自由主義の崩壊」「軍事大国に邁進するアメリカ」「アメリカに隷属する日本」という複雑に絡み合った糸がまるで嘘のように解きほぐされる。結論:今日の日本・世界情勢と朝鮮戦争との関わりとは
朝鮮戦争から米国と日本に明確な流れが定着
朝鮮戦争を境に、米国と日本に1つの明白な流れが定着しました。米国には軍事産業が根を下ろし、戦争を戦い続ける国になりました。世界各地に軍事介入する論理が不動のものとして米国のなかに確立され、それを支える国家体制(巨大な国防予算、軍需産業、理論面で支えるシンクタンクなど)ができました。今日までその体制は続いています。
日本には自由主義と民主主義を抑制する「逆コース」が定着しました。憲法や国会、自由を重視することなく動ける国になりました。米国から「軍事的に貢献しろ」という要請がしばしば届き、国会でのそれに消極的な議論を軽視して対策を取っています。
この動きは、憲法9条の解釈を変更して「集団的自衛権」(※1)の行使を容認した閣議決定(2014年7月1日)などにつながっています。さらに、新型コロナの影響で再浮上している「緊急事態条項」(※2)を憲法に新たに入れるかどうかという議論の背景にもなっています。米国は、日本の軍事力を米国の戦略に使い、そのときには日本の政府に対し、「民主主義体制を害しても実施させる」という考えを、朝鮮戦争時にすでにもっていたのです。
質疑
鳩山 朝鮮戦争はルーズベルト大統領からトルーマン大統領に変わったことが転機となったというお話がありました。
米国のオリバー・ストーン氏(※3)と対談した際、ストーン氏から「ルーズベルト大統領からトルーマン大統領に変わるときに、大がかかりな不正が行われた。もし、副大統領経験者で人望があり、国民の支持も高かったヘンリー・A・ウォレス氏(※4)が大統領になっていたら、長崎、広島の原爆もなかったのではないか」と聞きました。孫崎 視点を少し変えてお話します。第2次世界大戦が始まる前、ルーズベルト大統領は基本的に戦争に反対という立場をとっていました。しかし、ヨーロッパ諸国は米国に参戦してもらわなければ勝てないため、「アメリカをどうやって参戦させるか」考えていました。この時暗躍したのがイギリスの情報機関であり、戦争に反対する米国の政治家を「女の問題」「お金の問題」などで次々とつぶしていきました。その手口を、米国人はよく見ていたのです。 そして、第2次世界大戦後「戦後体制をどのようにするか」を決める際、軍産複合体の関係者を代表とする非ルーズベルト派(トルーマン派)の考え方をする人々は、イギリス情報機関から学んだ手口で自分たちの意見に反対する政治家を次々とつぶしていきました。
簡単にできるほど、軍産複合体の力は柔ではない
参加者 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が朝鮮戦争の停戦協定を締結し、休戦状態に終止符を打つ(のちに南北統一)ことを期待しました。
孫崎 トランプ大統領への評価にはさまざまな見方があります。米国では経済のグローバル化を推進する人々と安全保障を重視する人々が一体となっています。それに対して、トランプ氏は、米国の世界への軍事展開や安全保障には意味がなく、時にはドイツ駐留軍問題などから海外に駐在する米軍さえ必要ないとも受け取れる発言を繰り返しています。これを北朝鮮に当てはめてみると「敵視する必要はない」と考えることができます。しかし、軍産複合体の力はやわではなく、トランプ氏が望むからとって停戦協定、平和条約という考えを実行に移すことは許されませんでした。
(了)
【金木 亮憲】
※1 国際関係において武力攻撃が発生した場合、被攻撃国と密接な関係にある他国がその攻撃を自国の安全を危うくするものと認め、必要かつ相当の限度で反撃する権利。自衛権の1つで、個別的自衛権(武力攻撃を受けた国が、必要かつ相当な限度で防衛のため武力に訴える権利)と対比される。 ^
※2 国家緊急権(緊急事態条項)とは、戦争、内乱、恐慌、大規模自然災害など、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するため、立憲的な秩序を一時停止して、非常措置をとる権限のこと。
具体的に大災害などの際に、内閣は国会での審議を経ることなく法律と同じ効力をもつ「政令」を出すことが可能になる。憲法の秩序を一時的に止める「劇薬」とも言われ、ひとたび濫用されると、人権への悪影響は計り知れないものとなる。 ^※3 米国の映画監督、映画プロデューサー、脚本家。ベトナム帰還兵である自身の1年間の実体験を活かし、ベトナム戦争とそれが人間に与えた影響を描いた『プラトーン』で一躍有名になった。 ^
※4 米国の政治家。フランクリン・ルーズベルト政権にて第33代アメリカ合衆国副大統領、農務長官、商務長官などを務めた。 ^
<INFORMATION>
(一財) 東アジア共同体研究所
東アジア共同体研究所は、鳩山友紀夫内閣時代に国家目標の柱の1つに掲げられた「東アジア共同体の創造」を目的とするシンクタンク。2013年3月15日に発足。理事長・鳩山友紀夫(第93代内閣総理大臣)の下、理事・所長の孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、理事の橋本大二郎氏(元高知県知事)、理事の高野孟氏(ジャーナリスト)、理事の茂木健一郎氏(脳科学者)を中心に、プロジェクト形式で研究活動を行っている。
世界友愛フォーラム
アジア共同体研究所の事業の一環として、東アジアのみならず、広く世界の平和と共生を「友愛」の理念に基づいて推進していくための自由な議論や交流の場。これまでに、「東アジア共同体構想」や「東アジアの安全保障」「東アジアと沖縄」をテーマに勉強会やシンポジウムを開催、参加者は講師との意見交換など活発に議論を交わし、「世界の平和と共生」への理解を深めている。関連記事
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