2024年11月18日( 月 )

構造スリットの第一人者・都甲栄充氏が来福~構造設計一級建築士・仲盛昭二氏とベルヴィ香椎の施工不具合問題を対談(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 Net I・B Newsでは、福岡市東区の分譲マンション・ベルヴィ香椎における建物の傾斜や構造スリットの未施工に関する報道を重ねてきた。記者が構造スリットについて調べていたところ、東京を拠点に建築物の構造スリットの調査などを手がけている一級建築士・都甲栄充(とこう ひでみつ)氏の存在を知り、先日、都甲氏が来福した際に、構造設計一級建築士・仲盛昭二氏も交えた対談にて取材を行った。

 ――なぜ、構造スリットの不具合が生じるのでしょうか。

 都甲 構造スリットの未設置は、施工業者の故意によるものがほとんどでしょう。これに対し、コンクリート打設時にスリットがずれてしまうケースは故意ではなく過失だといえます。

 仲盛 2016年の熊本地震の際に、私は何棟ものマンションの被害状況を調査しましたが、比較的新しいマンションにおいても柱に大きな被害が出ていて、構造スリットが設置されていないと考えられる多数の事例がありました。同時に、鉄筋コンクリート造の柱・梁接合部が破壊されている建物がほとんどでした。設計における柱・梁接合部の検討が不正に省略された上、施工においても構造スリットの不具合があったため、それらの建物は壊滅的な損傷を受けていたのです。

 都甲 コンクリート打設時には、大きな圧力が掛かります。1,000mm角の柱と150mm厚の壁では圧力に大きな差があるのは当然であり、この圧力差により構造スリットが所定の位置からずれてしまうのです。コンクリート打設を数回に分け、大きな圧力が掛からないようにすれば防げるのですが、時間的な制約から、ほとんどの現場では1回もしくは2回で打設してしまいます。

 型枠を脱型後、スリット施工の状況を調査し不具合を補修すればまったく問題ないのですが、ほとんどの現場では、型枠解体後の目地棒の外観を見る程度で終わっており、コンクリート打設後の構造スリットの設置状況を確認していません。

 このように施工業者の認識不足により、構造スリットの不具合を残したままで仕上げ工事を行うため、構造スリットの不具合が隠されてしまうのです。

 ――構造スリットの不具合の調査は、どのような方法ですか。

 都甲 構造スリットの不具合を調査する方法は、図面に構造スリットが表記されているかを調べ、専門家によるサンプル調査(初期診断調査)を行います。築10年以内であれば、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)により、事業主側(施工業者含む)に賠償を請求できますが、事業主側に十分な対応能力があるか否か(倒産等)の調査が重要です。

 調査は、まず最大2日以内で「初期診断」を行います。これは健康診断のようなものであり、初期診断で構造スリットの不具合が判明した場合には、建物全体の構造スリット設置箇所について「全数調査」を行います。

 ――初期診断および全数調査の費用は、どれくらいかかりますか。

 都甲 初期診断は30万円(消費税別)前後です。全数調査は、建物の規模など条件によって異なりますが、事前にマンション販売会社側と協議を行ったうえで、その後の補修工事も含めて 販売会社側の負担で行います。重大な瑕疵が存在すれば、実質的な管理組合の負担はゼロということもあり得ます。

 ――日本のゼネコンの技術レベルを考えると、スリットがずれないように施工することは難しくないのではないでしょうか。

 都甲 型枠脱型後に、ゼネコンが構造スリットの施工に不具合がないかということを確認していれば、不具合を発見し是正できるはずです。しかし情けないことに、型枠脱型後の確認という基本的なことを怠っているゼネコンがほとんどであるため、多くの建物で構造スリットの不具合が見つかるのです。

 私は機会がある度に、ゼネコンに対して、「新築工事中、コンクリート打設前の構造スリット設置状況を調査することのみでなく、コンクリート打設後、具体的には目地棒撤去後に構造スリットの設置状態を確認し、万が一、不具合があれば、即時に補修工事をぜひ実施していただきたい」と言っています。

 構造スリットの不具合は是正・補修が可能なのです。きちんと構造スリットを設置していても、コンクリート打設中に側圧の違いやバイブレイターの影響などにより、目地棒とスリット材が外れたり、スリット材のジョイント部がずれたりしています。私が知る限り、ほとんどの現場において コンクリート打設後の構造スリット設置状況調査を実施していないと断言できます。

(つづく)

【桑野 健介】


<プロフィール>

都甲 栄充(とこう ひでみつ)

 福岡県北九州市生まれ、明治大学工学部卒業。大成建設(株)、住友不動産(株)を経て、2009年に(株)AMT一級建築士事務所を開設。主な資格は、一級建築士、管理建築士、一級建築施工管理技士、宅地建物取引主任者、管理業務主任者、監理技術者、特殊建築物定期調査員。(一社)日本建築学会司法支援建築会議・元会員、東京地方裁判所・元民事調停委員(建築裁判専門)、(一社)日本マンション学会・元会員、八王子市マンション管理組合連絡会・元会長。
URL:https://amt-happy.co.jp/


仲盛 昭二(なかもり しょうじ)

 (協)ASIO代表理事、構造設計一級建築士。久留米市の欠陥マンション裁判では和解を勝ち取るため、原告区分所有者を技術支援。

(1)
(3)

関連記事