構造スリットの第一人者・都甲栄充氏が来福~構造設計一級建築士・仲盛昭二氏とベルヴィ香椎の施工不具合問題を対談(3)
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Net I・B Newsでは、福岡市東区の分譲マンション・ベルヴィ香椎における建物の傾斜や構造スリットの未施工に関する報道を重ねてきた。記者が構造スリットについて調べていたところ、東京を拠点に建築物の構造スリットの調査などを手がけている一級建築士・都甲栄充(とこう ひでみつ)氏の存在を知り、先日、都甲氏が来福した際に、構造設計一級建築士・仲盛昭二氏も交えた対談にて取材を行った。
――施工の不具合により、構造スリットが所定の位置からずれた場合、どのような弊害が生じますか。
都甲 もっとも怖いのは「柱の断面欠損」です。構造スリットが柱側にずれた場合、スリット材が柱内部に入り込んでいるため、柱断面が欠損され図面上の柱寸法よりも小さい状態となります。柱の鉄筋(主筋・フープ筋)のかぶり厚が法定の厚さよりも少なくなったり、ひどい場合にはかぶり厚がなくなっていたりします。
また、スリット材がフープ筋に当たった状態となり、鉄筋のかぶり厚も付着もなく、鉄筋がコンクリートで保護されていない状態になるため、外気や水に晒され錆などの問題が生じます。仲盛 柱のかぶり厚が不足すると、「鉄筋に錆が発生しやすい」「火災時に鉄筋に熱が伝わり鉄筋の性能が低下」「付着力低下により、地震時などに鉄筋が引っ張り力を受けた際に鉄筋がコンクリートから抜ける」などを引き起こします。
構造スリットが適正な位置になく、構造スリットの働きがなければ、構造計算で想定した以上の力が柱の鉄筋に掛かります。柱に想定以上の力が加わった状態で鉄筋の付着力が低下していれば、柱に致命的な損害を与えてしまいます。
――完成後のマンションの外観を見ても、構造スリットの存在はわかりません。
都甲 コンクリート打設後、型枠を脱型した段階で、構造スリットが適切に施工されていないことを見落としたまま仕上げ工事が行われます。コンクリート躯体の表面に仕上げモルタルが塗られ、タイルなどで覆われてしまい、構造スリットの不具合という重大な瑕疵が隠されてしまうのです。外壁タイルの目地は構造スリットの位置に合わせるため、外観を見る限りにおいては、構造スリットが適正な位置に設置されているかのような錯覚を与えてしまうのです。
――ひび割れや漏水など何か特別な不具合が出ない限り、マンションの区分所有者などは隠れた瑕疵に気づくことなく、10年、20年と経過することになるのですね。
都甲 マンションの大規模修繕においても、外壁改修業者は構造スリットの知識が皆無であるため、構造スリットを調査することは稀です。
仮に15年目で大規模改修を行っているとしたら、次の30年目まで瑕疵が隠されたままとなります。地震が発生した際に初めて発覚することになりますが、そのときにはマンションは取り返しがつかない状態となっています。――マンションの区分所有者や管理組合は、どう対処すればいいでしょうか。
都甲 先ほど話した「初期診断」を行うことが重要だと考えています。診断の結果に問題なければ安心材料となり、マンションの資産価値も保全されます。万が一、不具合が判明すれば是正を検討することができ、地震発生時の最悪の事態を避けることができます。
人間の体にたとえると、ガンを早期発見できれば治癒率は高くなりますが、発見が遅れれば不幸にして命を落とす場合もあります。構造スリットの不具合は、初期診断で簡単に発見できるため、健康診断と考えて初期診断を行うことが賢明だと考えています。
「構造スリットの不具合が判明すればマンションの資産価値が下がるため調査は必要ない」という区分所有者の声もあります。しかし、瑕疵が隠れたまま売却し、後に瑕疵が発覚した場合、売り主の責任が追及されます。また、所有者が死亡した場合、相続した家族は瑕疵を抱えたマンションを相続することになるため、家族のためにもマンションの現状を把握しておくべきだと考えています。
何よりも、地震はいつ発生するかわからないため、今マンションで生活している方々の安全確保のためにも、構造スリットの現状を知っておくべきだと考えています。
(つづく)
【桑野 健介】
<プロフィール>
都甲 栄充(とこう ひでみつ)
福岡県北九州市生まれ、明治大学工学部卒業。大成建設(株)、住友不動産(株)を経て、2009年に(株)AMT一級建築士事務所を開設。主な資格は、一級建築士、管理建築士、一級建築施工管理技士、宅地建物取引主任者、管理業務主任者、監理技術者、特殊建築物定期調査員。(一社)日本建築学会司法支援建築会議・元会員、東京地方裁判所・元民事調停委員(建築裁判専門)、(一社)日本マンション学会・元会員、八王子市マンション管理組合連絡会・元会長。
URL:https://amt-happy.co.jp/
仲盛 昭二(なかもり しょうじ)
(協)ASIO代表理事、構造設計一級建築士。久留米市の欠陥マンション裁判では和解を勝ち取るため、原告区分所有者を技術支援。
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