2024年12月22日( 日 )

【住民投票迫る】いよいよ明日。大阪都構想(大阪市廃止)の行方 維新は災害対策「やってる感」を演出

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南海地震で大阪市の死者数は12万人を想定

 政令指定都市が初めて廃止されるか否かでも注目される「大阪都構想(大阪市廃止)」の争点の1つは防災だ。「水の都・大阪」は、豪雨災害や津波被害、さらに高潮などの水害に弱い都市でもある。このため、防災の第一人者である河田恵昭・関西大学特命教授は、「都構想よりも災害対策を優先すべきだ」と訴えている。

 10月4日のれいわ新選組ゲリラ街宣で河田氏は、南海地震による津波被害で大阪市内の水没が予測されていること、さらに死者数は12万人と想定されていると警告した。また最近頻発する豪雨災害にも脆弱であることを問題視。淀川に架かる鉄橋は水面ギリギリまで迫っているため増水時には流木などが堆積して氾濫する恐れがあるのに、高架化されていない不備などを指摘した。

 河田氏が「防災対策が不十分」と指摘しているのは大きく分けて以下の3つ。

(1)津波襲来を食い止める三大水門が老朽化(耐震性不足で更新が必要)
(2)大阪市内の地下街の水没対策(名古屋市に比べて遅れている)
(3)淀川の鉄橋の高架化が未達

河田恵昭・関西大学特命教授(大阪都構想への反対集会で)

菅義偉首相は「(南海地震は)来ないでしょう」と他人事

 南海地震も集中豪雨もいつ来ても不思議ではないため、都構想(大阪市廃止)より防災対策を優先すべきと河田氏は主張している。河田氏は告示日(10月12日)に自民党の反対集会にも参加。「大阪都構想のような未熟な案を通してしまうと、次に南海地震が起こると大阪市は壊滅する」と問題提起をする一方、危機感の乏しい菅首相の官房長官時代の問題発言も暴露した。

 「(南海地震の津波被害について、官房長官時代の菅氏に)『どうしていただけるのですか』と聞いたら、こう言ったのです。『先生、来ないでしょう』と。そんなことで政治家は困るのです。もっと将来を見通さないといけない」

 菅首相も、菅首相と蜜月関係にある維新も、災害対策が不十分であることへの危機感が欠如しているというのだ。そこで21日の会見で、維新副代表の吉村洋文・府知事に防災対策不足について聞いたところ、「淀川の鉄橋の高架化は、事業が決定して今動いています」と説明した。

 「高架化は長年やらなきゃいけないことでしたが、なかなかできていませんでした。でも府市一体の体制になってから『これは絶対やらなければいけない』というので、僕が市長のときもやりましたし、大阪府も一体になって高架化についてはすでに決定をしています。もう完成年度を決めて進めているという状況です」

 しかし、大阪府担当課に確認すると、国交省の事業で「着手から完成まで15年間かかる」と教えてくれた。高架化が実現するまで10年以上かかる現状を河田氏に伝えると、「災害は待ってくれない」と当然の指摘。また、三大水門についても担当課は、「耐震性が不足して更新が必要という認識だが、建設場所や具体的工法や事業費などは決まっていない」と説明してくれた。工事開始や事業化決定だけでは災害を防ぐことはできない。「やっている感」の演出に止まっていると言わざるを得ないのだ。

松井・維新代表は「(死者数を)2万人に“抑えた”」

 維新代表の松井一郎・大阪市長にも河田氏の指摘をぶつけたうえで、「都構想にかまけている暇はないのではないか」と聞くと、こう反論した。

 「南海トラフの地震で、2010年当時、お亡くなりになる人が14万人と試算されていたが、今、その防潮堤を基礎強化やって地盤改良したら(死者想定数が)2万人です。12万人、命を落とす人を抑えた」。

 松井氏は、「津波対策は進んでいる」と主張したのだが、東日本大震災の津波犠牲者(死者行方不明)は、岩手・宮城・福島を中心に2万人弱にもおよんだ。これと同程度の2万人では「依然として対策不十分」という状況ではないか。

 想定死者数が2万人になっていることについて河田氏にぶつけると、「甘い想定に基づくもので、それほど減るとは見ていない」と強調した。「都構想よりも防災対策を優先すべき」と訴える河田氏と、「府市一体行政で防災対策は進んでいる」と反論する維新ツートップの考えは大きく異なる。どちらの主張に大阪市民が共感を覚えるのかも、都構想の住民投票を左右する要素になっている。

 いよいよ明日、大阪と維新の今後を左右する重要な日を迎える。

【ジャーナリスト/横田 一】

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