元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書(27)パナマ向け教育テレビ設備、がん医療機器輸出
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日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏
パナマ運河の鉄道案件で3カ月間の長期出張中、宿泊していたホテルの近くにある日本料理店にときどき食べに出かけていた。ある日、日本人と思しき人が食事していたため、「どちらからお越しですか」と聞くと、パナマ教育テレビ局コンサルタントとして、家族でパナマに長期出張中だという。テレビ機器は日本の無償援助プロジェクトとして、パナマ側に提供されるということだった。
「ニチメンとして、このプロジェクトに興味があるため、差支えない範囲で内容をお教え願いたい」と頼み込んだが、「日本の機器メーカーN社が中心で動いていて、本件はS商社がすでに介在しており、いまからでは遅いと感じる」と説明があった。筆者は「ニチメンは別ルートでアプローチしたいと考えているため、競争入札という意味でも、大まかな入札内容を開示願いたい」と粘った結果、入札の概略を教えていただいた。お礼に、改めて食事に招待し、宿泊していたホテルの地下にあるカジノに案内した。この方は、ICU(国際基督教大学)出身だという。ニチメンの後輩にICU出身者がおり、筆者も東京外大出身だということで急に親しくなった。
すでにS社が働きかけているという機器メーカーN社との窓口取得の交渉では、ニチメンでは、競争入札への対策として下記のPRを行い、現地の詳細情報を提供した。
- パナマ運河修復の大型工事では、英国と競争して応札準備中である。
- 日本の新幹線技術者グループと組み、パナマ運河の修復や通信設備の案件をワーク中。
- 現地協力者として元パナマ大統領顧問グループを起用。強いパナマ人脈を有している。
その結果、N社はニチメンの現地情報がS社より詳細で、かつ人脈も有しているとしてニチメンを起用し、S社をサブ商社とすることを決定した。ここでも、「商社の命」は現地人脈と情報であることが実証された。
パナマ側からは、パナマ教育テレビ局の担当理事が日本メーカーを視察するために訪日し、アテンドに全力を尽くした。JICA担当総務部長は、偶然にも筆者がニュ-デリー支店長時代にお世話になったS氏(当時駐インド日本大使館一等書記官)であったこともあり、なにかとご指導いただいた。インド駐在時に築いた人脈がパナマで花開き、人生のご縁をかみしめた次第だ。
時間はかかったが、初のパナマ向け無償供与が実現した。このご縁から、パナマがんセンター向けの医療機器の大型無償援助入札の落札にも成功。余勢を駆って、スペインテレビ放送局向け日本のテレビ番組の初輸出も実現した。
さらに、上述したパナマ教育テレビ局コンサルタントが、中国教育テレビ局への無償供与にも関与しており、当社はこの案件にも関与した。筆者が後年、ニチメン本社業務本部米州課長時代に携わった、カナダの画像通信システム「テリドン」の日本向け売り込みでは、同コンサルタントにカナダへの出張などのご協力をいただいた。パナマの日本レストランでの不思議なご縁が大いに役立った。
テリドンシステムの日本向け導入商談では、当時、先端情報技術の第一人者として活躍しておられた(株)進学社常務の堀内道夫氏にカナダに出張をお願いし、ご協力、ご指導をいただいた。堀内氏にはニューヨーク駐在時にも大変お世話になった。40年前のことである。堀内氏には日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)顧問として長年にわたりご指導いただいている。
筆者の人生は、このような人生の不思議なご縁、めぐり合わせに満ち満ちている。
(つづく)
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)関連記事
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