2024年12月22日( 日 )

印刷から総合メディア業へ 業態改革で新時代に挑む

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アド印刷(株)

生き残るには理由がある 挑戦続ける老舗

 2018年に創業40周年を迎えたアド印刷(株)は、福岡の印刷業界を代表するトップランナーである。と同時に、「印刷」だけにとどまらず、激動する時代の一歩先を常に見据え、新しいチャレンジを続ける企業でもある。

 だが、印刷業という業種の将来を考えると、インターネットの台頭に始まり、ペーパーレス社会への移行が叫ばれる昨今は決して明るい時代とはいえない。さらに、20年春に表面化した新型コロナウイルス感染症が経済・社会全体に与える影響は甚大で、収束のメドが立たない状態だ。

 「新型コロナウイルス感染症による影響は当社にとっても、もちろん大きい。しかし、ただ『売上がなくなった』と言っていても何にもなりません」と話すのは、同社の田平保男社長だ。1978年の創業時には自前の印刷機すらなく、裸一貫から叩き上げた立志伝中の人である。「本当なら、今年は本社から自分の部屋を引き上げて悠々自適の引退生活を送るはずだった」と笑う田平社長の陣頭指揮で、同社はコロナの荒波を見事に乗り切りつつある。

印刷業から総合メディア企業へ

アド印刷はお客さまの販促パートナー
アド印刷はお客さまの販促パートナー

 「お客さまに、『安くするから新聞折込チラシをたくさん印刷しましょう』と提案するような時代はとっくに終わりました。今は、『御社がリーチしたい顧客層にはDM(ダイレクトメール)やウェブ、テレビCMのほうが効果的です』というような提案を、根拠のある数字を基に行う。当社には、そのノウハウと設備、システムがあります」と話す田平社長。その言葉通り、同社は他社に先駆けて新しいジャンルに踏み出し、その地歩を築いてきた。

 たとえばDM。同社は同業他社に先んじてDM用の窓空き封筒印刷機を導入するなど、設備面での積極投資で大きなアドバンテージを築いている。近年では個人情報保護の必要性が高まり、万が一情報流出が起きた際の保険への加入も求められているが、同社はこのような保険にも対応済み。とくに大手企業が絡む案件では、事前に保険証書の提示を求められることもあるという。

 また、近年増えているのは、「名刺や伝票などの印刷物からウェブまでを含め、まとめてお願いできますか」という依頼だという。背景には、一括して発注することで管理コストや個人情報を扱うリスクを軽減したいという発注企業側の事情がある。こうなると、「印刷」だけに特化した印刷企業では受注が難しい。新聞折込チラシの広告効果が低下していくなかで、常に変革を続けてきた同社の取り組みが、明確な強みとして発揮される時代が訪れている。

常に改革を変身を続けるアド印刷

アド印刷本社社屋
アド印刷本社社屋

 「印刷業界は、昔から『業態改革』がキャッチフレーズでした。今、それを成し遂げていない企業は生き残っていくのは難しい。3年前のアド印刷と、3年後のアド印刷。外部からどう違って見えるかを、自分たちでしっかり考えておかなければいけない」と田平社長がいうように、印刷業界は長く自己変革の必要性に直面してきた。「業態変革」という言葉をどう捉えるか、たとえば社内にデザイン部門を設けたり、製本作業を請け負えるようにしただけでは不十分。外から見て、企業のイメージがガラッと変わるようでなければ「変革」ではない―というのが田平社長の覚悟だ。

 この姿勢は、創業当時から変わらない。DTPが一般的になる以前、同社は約2億円の巨費を投じてDTP専用のシステムを導入。ところが、このシステムが安定した運用が可能になったところでMacを使ったデジタル製版(CTP)が急速に普及したため、同社は結果として二重の投資を強いられることになった。

 「たしかに出費は大きかったけれど、もし前の投資額を気にしてMacの導入が遅れたらどうなっていたか。デジタル製版の普及によって、結果的に製版工程は印刷会社が内製化するようになり、従来の製版業はほぼ消滅してしまった」と当時を振り返って語ってくれた田平社長。仮にリスクを恐れて投資を行わなかったとしたら、現在のアド印刷の姿は大きく異なっていただろう。

未曾有の危機を全社一体で乗り越える

エチケットマスク入れ
エチケットマスク入れ

 そして、「改革」が強く求められているのは、コロナ禍に直面している現在も同様だ。2020年4月に緊急事態宣言が発出されて以降、福岡県をはじめ全国の経済活動が事実上ストップ。同社も大きな影響を受けることになった。

ダンボールパーテーション
ダンボールパーテーション

 当然ながら、4月から6月までの売上は大きく落ち込んだ。その一方で、7月は前年比で8割、8月は同9割に近い数字に戻しているという。なぜなのか。

 「お得意先に、毎月数千万円の売上があった大手旅行代理店があります。もちろん、緊急事態宣言が出てからは発注がなく、売上はゼロです。担当していたやり手の営業マン4人の手が空いてしまった」(田平社長)。

 ここまでならどの企業でも直面するコロナ危機。だが、そこから一味違うのがアド印刷だ。

 「彼らに『自分たちで考えてみろ』と任せてみたら、これまで当社がほとんど扱ってなかった官庁関係の仕事を取ってきてくれましたよ」(田平社長)。

 社員の自主性に任せるトップ、それに応える社員。活気ある職場であることが潰さに伝わるエピソードといえるだろう。進取と挑戦、時代を常にリードする気風をもつアド印刷の将来は明るい。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:田平 保男
所在地:福岡市博多区榎田1-3-23
設 立:1978年7月
資本金:4,000万円
TEL:092-472-9871
URL:https://www.ad-printing.co.jp


田平 保男 氏<プロフィール>
田平 保男
(たびら やすお)
1947年6月生まれ。八幡大学(現・九州国際大学)卒業後、(株)チューエツに入社し、印刷会社の営業マンとして活躍する。78年3月、アド印刷(株)を開業、同年7月に法人設立。元・福岡印刷工業(協)理事長。

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