2024年11月14日( 木 )

【終わっていない福島原発事故】トリチウム汚染水の海洋放出で住民を見捨てる菅政権

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

菅政権はトリチウム汚染水の海洋放出をゴリ押し

汚染水の海洋放出で福島の漁業は命運が尽きると警告を発する
福島原発事故生業訴訟の中島孝・原告団長

 「海洋放出をしたら福島の水産物の命運が尽きることになると思います。地元の漁師は『今でもさっぱり魚が売れないのに、トリチウム汚染水なんか流したらもっと売れなくなる。福島の漁業は終わりだ』とハッキリ言っています」

 こう怒りを露わにするのは、福島県相馬市で水産加工品も扱うスーパー「中島商店」代表の中島孝氏。「福島原発事故生業訴訟」の原告団長で、仙台高裁勝訴判決を勝ち取った。しかし原発推進の安倍政治継承を訴えた菅政権はこの判決を受け止めずに上告、福島第一原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む汚染水の海洋放出もゴリ押ししようとしている。

 中島氏はこう続けた。「政府は、相馬双葉地域から五輪の聖火ランナーがスタートすることで『原発事故は終わったのだ』と復興を印象づけようとしていますが、原発事故から9年経ってもいまだに風評被害が続いています。こうした現実を隠蔽して被害を切り捨てたうえで、海洋放出を福島県民に迫っているのです」。

タダ同然で取引される福島県産野菜

枝野代表は11月15日に相馬双葉漁協を訪問し、汚染水の海洋放出問題について意見交換をした

 海洋放出に反対する漁業関係者ら福島県民と強行突破のタイミングを見計らう菅政権とのにらみ合いが続くなか、立憲民主党の枝野幸男代表は11月15日に「相馬双葉漁協」(相馬市)を訪れ、汚染水の海洋放出問題について幹部らと意見交換をした。

 当然、相馬双葉漁協も「海洋放出は国内漁業の将来に壊滅的な影響を与えかねない」として反対の立場。そのため立谷寛治組合長は会合の冒頭で、政府に慎重な判断を働き掛けるよう求める要請書を枝野氏に手渡した。そして意見交換では、漁協幹部からは「国からまったく説明がない」「風評被害が検証されておらず、対策も示されていない」といった批判的な発言が相次いだ。こうした訴えに耳を傾けていた枝野氏は、「何度でも漁業者と話し合わなければならない。風評被害の検証も必要」と強調、十分な説明なき海洋放出を進めようとする政府に方針変更を求める考えを明らかにした。

立憲民主党の枝野代表

 「(漁業)関係者にさえ、きちんとした説明がなされていない状況では海洋放出を決定することはできない」「説明なき唐突な進め方ということを当事者の言葉で聞かせていただいて、こういう進め方は許すわけにはいかないことで意を強くした。風評についての心配への対応や説明がなされていないことが、政府の進め方として大変問題だ」(枝野代表/会合後の囲み取材で)

 枝野氏に続いて立石氏も囲み取材に応じ、「海洋放出以外の代替案の検討が不十分、他の道があり得るという考えか」と聞くと、立石氏はこう答えた。

枝野代表らとの意見交換後に 囲み取材に応じた立石組合長

 「これまで大震災から9年8カ月、風評被害の検証をしないで、海洋放出ありきでやってきた。風評被害対策について明確な説明をしてもらわないと、ただ『風評対策をやります』だけでは納得できない」

 きちんとした説明抜きで汚染水の海洋放出を強行しようとする菅政権に対して、はっきり「反対」と言わないことを批判されているのが内堀雅雄・福島県知事だ。先の中島氏はこう話す。

 「築地の仲買人から福島産の水産物について、『スーパーは福島県産の表示をしないといけないので取り扱わない。築地でも隅に置かれているだけで、県産表示をしなくていい飲食店がただ同然で買っていく』と聞きました。福島原発事故から9年以上経っても、実際は何も終わっていない。風評被害は続き、県民は被害を受け続けている。こうした実態を内堀知事はわかっているはずだ。こんな状況のなかで、さらなる被害を招く汚染水海洋放出を国が決めたのならば、県民の生活を守るために内堀知事ははっきりと海洋放出反対を言わないといけない。態度を鮮明にしないというのは本当に信じられない。〈正気の沙汰か!〉ということを内堀知事にぶつけたい」

 官僚出身知事にありがちな弱腰の内堀知事に乗じて菅政権は、汚染水海洋放出のタイミングを見計らっているように見える。政府は、10月23日の「廃炉・汚染水対策チーム会合」で議論は終結したと判断。「10月27日にも海洋放出の方針決定」との報道が流れるなか、梶山弘志・経済産業大臣は「さらに検討を深める考えを示した。しかし海洋放出自体を見直す兆しはまったくなく、単に先送りをしただけにすぎない。

「二酸化炭素排出ゼロ」にかこつけた原発推進政策

 「(福島原発事故の)被災者の心に寄り添いながら復興に取り組む」と口先では語るものの、海洋放出強行の構えを崩さない菅政権(首相)に対して、合流新党発足後に初めて福島訪問をした枝野氏は対決姿勢を強めている。先の囲み取材で「菅政権と対決するという意味で、菅政権のエネルギー政策、所信表明演説では原発推進にも触れる姿勢についてはどう考えているのか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「『2050年に二酸化炭素実質排出ゼロを目指す』という方向が示されたときには若干の期待感をもちましたが、むしろ、これにかこつけて原発政策を悪い方向に転換しようとしている姿勢が明確になったと思う。脱炭素のために(原発の)新増設も否定しない。(原発の)新型小型炉の開発を進めるということで、処理水の話もこのドサクサに紛れてやろうという意向ではないか。福島原発事故についての原因を含めた検証も十分ではない状況のなかで、決して許されるものではない」

 原発推進で海洋放出強行の菅政権と、脱原発で海洋放出反対の多くの福島県民と野党連合という対決の構図が鮮明になる。

【ジャーナリスト/横田 一】

関連記事