2024年11月22日( 金 )

地震保険裁判において画期的な判決!非公開の基準表の存在を保険会社が公式に認める~被災者が勝訴(中)

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一級建築士・都甲栄充氏による現地調査

 原告のAから依頼を受けた 一級建築士・都甲栄充氏は2017年3月、熊本地震で被害を受けた原告Aが所有する大分県別府市内の鉄筋コンクリート造8階建ての賃貸マンション(以下、本件建物)の調査を実施した。

 地震保険損害調査書には「最上階を除き、損傷のもっとも大きな階で調査する」とあり、鉄筋コンクリート造8階建ての本件建物では2階部分(とくに梁)の損傷が激しかったため、2階の梁にしぼって調査を行い、X方向14本の梁(X1~X14)Y方向14本の梁(Y14)計28本の梁のうち、X7とX14の梁について、都甲氏の調査結果と損保ジャパンの判定が食い違う結果となった。

※梁X7・X14について、損保ジャパンの判定は「程度Ⅱ」、都甲氏の判定は「程度Ⅲ」
 程度Ⅰ:ひび割れ幅0.2mm未満
 程度Ⅱ:ひび割れ幅0.2mm以上1mm未満
 程度Ⅲ:ひび割れ幅1mm以上5mm未満
 程度Ⅳ:程度Ⅲを超えるひび割れなど

 調査結果を「全損・半損・一部損損害認定基準表」に当てはめた場合の主要構造部の損害割合は22%となり、「20%以上50%未満」の「半損」に該当すると、都甲氏は判定した。

裁判所の判断

  • 柱や梁が露出していない部分の損傷を確認するために仕上げ材を剥離する作業は事実上困難であるため、柱や梁に仕上げ材が施工されている部分については、外壁の状況などから損傷の程度を判定するほかない。
  • 損害認定基準の数値基準が具体的な数値を示し定められているのは、判定を容易にするための定量的な指標と考えられる。
  • 地震保険において、全損・半損・一部損の3ランクで損害認定をするという定型的かつ簡便な方法が採用され、損害算定基準も損害認定を迅速かつ的確に行う必要性を考慮していることから、ひび割れについて被害のレベルを判定するに当たっては、その外壁の状況に着目して基準表の数値基準を基本的な指標とした評価をすることが相当である。

この裁判の判決の意義

 今回の裁判により、保険会社が使用している損害認定基準が客観的な数値により定量的な判断が可能なものであり、仕上げ材の外観上の判断で認定できることが明らかになった。具体的にいうと、1mm幅のひび割れがあることによって、その他の多数の小さなひび割れなどと相まって、「半損」の認定を認められることが明らかになったのである。

 これまで一般に公開されていなかった基準表の存在を保険会社が公式に認めたことは、今後の地震保険をめぐる問題に大きな影響をおよぼすと考えられる。
 今回の判決が地震保険の在り方に大きな影響を与え、地震保険における損害認定が迅速かつ的確に行われ、被災者の迅速な救済が実現する可能性が高くなると期待される。

東日本大震災でも地震保険の損害認定に大きな問題が残っていた

 東北地方の太平洋側などに大きな建物被害が発生した東日本大震災。被災したマンションなどでは、1日も早く復旧工事に着手するため、迅速で的確な損害認定を期待していたが、実際に損害認定を行う調査員は保険会社から派遣されており、保険会社が作成した抽象的な認定基準により判定し、判定に関する説明を行わないため、判定に不満を持つ所有者と保険会社の間で揉めるケースが多かったという。

 なかには「一部損」の判定から「半損」へと損害認定レベルが上がったケースもある。仙台のマンションの管理組合から依頼され、認定結果の説明会に立ち会った都甲氏は、「保険会社から派遣された調査員は外観での目視調査が多く、躯体のひび割れ幅をクラックスケールによる測定など詳細な調査は、ほとんど実施されていなかった。管理組合が認定に疑問をもつのも無理はない」と語る。

 この仙台のマンションでは、都甲氏が外装タイルの一部を剥いで調査したところ新たに数カ所以上の躯体柱の被害が確認され、損害認定は当初の「一部損」から「半損」へと変更された。その結果、保険金は500万円から5,000万円へと10倍の金額となった。

(つづく)

【桑野 健介】

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